記者会見で。声明に至った経緯を説明する稲氏

研究者の立場から政策を提言する国の特別機関「日本学術会議」が推薦した新任会員候補者6人を菅義偉首相が任命を拒否した問題で、憲法研究者有志らは10月14日、声明「菅首相による学術会議会員の任命拒否に対する憲法研究者有志の声明」を発表。同日、衆議院第二議員会館多目的会議室で記者会見を行った。

声明では、「『学問の自由』(憲法23条)の精神にてらせば、日本学術会議は、研究者集団が政権から独立して自由に活動することを確保できるような解釈をする必要があります。したがって、日本学術会議法7条2項(会員は、日本学術会議の推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する)は、従来通り、内閣総理大臣は研究者集団で構成される日本学術会議の推薦を拒むことはできないの解するべき」とする。だが、「菅首相は、日本学術会議が推薦した研究者を拒否しました、このような姿勢は日本学術会議法の解釈を誤っている上、憲法23条の趣旨を十分にふまえておらず、権力者は憲法に拘束されるという立憲主義の観点からも問題があります。また、憲法上の裏付けをもった7条2項の解釈を実質的に変更することは、憲法秩序や法的安定性という点からも問題があります」と指摘。今回の任命拒否は、6人が「安保法制」や「共謀罪」に反対する立場を表明していたからではないかとの推測がなされているとし、「任命を拒否した理由を丁寧に説明すると共に、速やかな6名の任命」を菅首相に求めた。声明には14日現在、139人が賛同している。

記者会見には稲正樹(元国際基督教大学教員)、清水昌彦(日本体育大学教授)、石村修(専修大学名誉教授)、植野妙実子(中央大学名誉教授)、根森健(東亜大学教員)の各氏が臨んだ。

稲氏は、声明に至った経緯を説明した後、自身の意見として①今回の任命拒否は憲法23条の侵害になる、②安保法制や共謀罪、特定秘密保護法に対して意見を述べてきた人たちを排除した、③今回の事態の背後にある真相を明らかにしないといけない、の3点を述べた。特に③に対しては「日本学術会議は2017年に『戦争を目的とする科学の研究は絶対に行わない』という1950年、67年の声明を継承し、軍事的安全保障研究の推進に歯止めをかけた。このような決定は日本における軍事研究の進展を立ち止まらせる大きな要因となったが、今回の一件を機に軍事研究を進める方向に動き始めるのでは、という懸念も指摘されている」と語った。

根森氏は、「ナチが共産主義を襲ったとき、自分はやや不安になった。けれども結局自分は共産主義者でなかったので何もしなかった」から始まり、「ナチは教会を攻撃した。(中略)そこで自分は何事かをした。しかしそのときはすでに手遅れだった」で終わる、ドイツの牧師・神学者マルティン・ニーメラーの言葉を引用。「今まさに、表現、学問、研究、精神的活動の中で、自由や自立性が後退させられてきた。今回は学問の攻撃と言っていい。これは分水嶺、声を上げなければならない問題なんだという思いを強くしている」と危機感を表した。

声明全文