4月18日号紙面:【医療特集】『全人医療とスピリチュアルケア』オリブ山病院理事長 田頭氏
『全人医療とスピリチュアルケア』出版 コロナ禍で在宅ホスピス増える 社会医療法人 葦の会/オリブ山病院理事長 田頭氏
地域医療と共に介護支援の働きを担う沖縄県那覇市にある社会医療法人 葦の会 オリブ山病院は、キリスト教精神に基づき、病める者の肉体的、精神的、社会的、さらに霊的ないやしを含めた全人医療の実践を通して、主のために奉仕することを基本理念とする。オリブ山病院理事長の田頭真一氏は、このほど『全人医療とスピリチュアルケア 聖書に基づくキリスト教主義的理論とアプローチの手引き』をいのちのことば社から出版した。本書についてと共に、新型コロナ感染拡大の中でオリブ山病院がどう医療を提供しているのかについて話を聞いた。
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田頭氏は、本書を書いた目的についてこう語る。「オリブ山病院は、淀川キリスト教病院と同時期にホスピスを始めたが、そのホスピスの精神を受け継ぐため、どんな思いで始めたのか、何を目指しているのか、全人医療の考え方について明らかにしておきたいというのが第一です」
スピリチュアルケアという言葉が、キリスト教以外でも言われるようになって久しい。だが、「その言葉が一般化するに従って焦点がぼけてきているのではないか」と、田頭氏は危惧する。「いろいろな考え方があるけれども、私どもの考え方はこうだ、少なくともキリスト教主義に基づくスピリチュアルケアはこういうものだということを発信したかった。本来、聖書に基づくスピリチュアルケアとはどういうものかを明らかにし、職員に対してオリブ山病院がしていることを理解してほしいと思いました。本書はオリブ山病院緩和ケア、認定看護師や研修医、またスタッフの教科書としても用いたいと思います」
本書では「癒やしの祈りについて」という項目で、「スピリチュアルケアにあたる者は、緩和ケアの意味を踏まえて、安易な癒やしの祈りをするべきではない」とある。牧師やクリスチャンの中には、とにかく信仰があればどんな状況でも癒やされるという誤った考えもあり、がんの積極的治療はしない緩和病棟でも癒やしの祈りをしてしまう場合がしばしばあるからだ。田頭氏は「ホスピスではこの地上の回復ではなく、この地上の生涯で走るべき行程を走り尽くし、もはや義の冠が待っているという段階での御国の希望にあふれていくように支えていくことが中心となる」と書いている。
『僕たちはどう死ぬか~どう死ぬ、いつ死ぬ、どこで死ぬ~』(仮題)(田頭真一著)も近日、幻冬舎から発売される。
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新型コロナ感染防止のため患者と家族が面会できない状況がある中、オリブ山病院ではどんな対応をしているのか聞いた。田頭氏は「緩和ケア病棟では、中に入れなくても、患者さんを病棟の外にお連れし、チャペルで会っていただいたり、あるいは時間制限して、週に1、2回会っていただいたりしている。ネットで病棟と外をつなげて会話をしてもらうなど、様々な手段をできる限り活用している」と答える。
「コロナ禍になってから在宅ホスピスが増えている」とも言う。「コロナの影響で入院者数が減っている。一方、在宅なら感染リスクも低い。オリブ山病院には在宅医療支援センター『シャロンクリニック』があり、入院できなければ在宅で、ということで医師、看護師、チャプレンが一緒に訪問してケアをしています」
亡くなった患者に対しては「希望者には、チャプレンが病棟のそばにあるチャペルでお見送り式をする」と言う。「付き添いの方中心なので十数人、時間も30分ほど。一曲賛美をし、チャプレンが御言葉から短い奨励をし、そして亡くなられた方とのお別れの時を持つ。そして霊柩(れいきゅう)車が遺体の入った棺を積んで出発するのを見送る。このお見送り式はクリスチャンでなくても9割の方が希望される。葬儀ができない分、グリーフケアという点で、この見送り式の重要性が増しています」と語った。
『全人医療とスピリチュアルケア』 田頭真一著 いのちのことば社 1,980円税込 四六判