写真=CLIPのサービスのイメージ

ITクリスチャンネットワーク「CALM」、ITミニストリー「FaithTech Japan」が共催したデイキャンプ「JAPANESE CHRISTIAN TECH CAMP SUMMER2021」が8月6日にオンラインで開催された。聖書からのメッセージでITワーカーを励ますとともに、教会の宣教を考える具体的なサービスやアイデア、プロジェクトが紹介された。CALMおよび「FaithTech Japan」代表でもある中村恵久さんは、「IT系だけでなく牧師や様々なクリスチャンと共に宣教を進めたい」と話す。【高橋良知】

写真=松田牧師

プログラム最初の「デボーション」もITを駆使した。聖書解説動画「聖書プロジェクト」でエペソ書の全体像を確認し、聖書朗読サービス「聴くドラマ聖書」でエペソ4章を聴いた。この聖書個所から松田牧人さん(バプ同盟・オアシスチャペル利府キリスト教会牧師)が「ITクリスチャン達、ととのってる?」の題でメッセージした。

「特別な使命のためには教会をどう理解し、自分の教会とどのように関わるかが大事。教会抜きに、イエス様に従う、神を愛する、ということは出来ない」と強調し、「所属している教会が健全に機能しているか。あなたはその中でどのような存在か」と問いかけた。

クリスチャンのアイデンティティー、成長、ゴールについて勧めた。「アイデンティティー」は「召された聖徒」。「能力やキャリアがある人も、発展途上で思い通りいかない人も、問題だらけでも聖なるものとして召された」と励ました。

「成長」については、「奉仕のためにととのえられる」ことを挙げた。「クリスチャンとしても本物をめざしてほしい。そのために牧師に御言葉によって整えてもらってほしい。また牧師が様々な業務に追われないように支えてほしい」とアドバイスした。

「ゴール」は「キリストの満ち満ちたみたけに達すること」。「多様性、個性が生かされて、キリストのからだを建て上げたい。イエス様は、私たちのために命を投げ出した。一度しかない人生。全力で意義ある生き方をしたい」と語った

スキルもつ人と共に

写真=ソンさん

続いて「FaithTech 」アジア代表で、タイでクリスチャン向けマッチングアプリを開発したシッタヴィー・テーラクルチャン(ソン)さんが話した。ソンさんは元々IT系ではなく、学生伝道団体のスタッフ。学生時代にスタッフからメンタリングを受けた経験を感謝し、「メンタリングのスキルをほかの人にもしていきたい」とアプリ開発の動機を話した。

ITの動向にも関心を持ち、クリスチャンの「ハッカソン」(アイデアを短時間で試作品にまでする試み)のイベントに参加した。そこでクリスチャンがメンターと出会えるマッチングアプリ「サボック」を構想した。このアプリを昨年12月にリリースし、2千人以上が登録した。このアプリを通して、自殺をとどまった人、信仰を回復した人が起き、スタッフが足りない教会で若者のフォローに利用するなど、様々な活用がされた。

ソンさんは「自分がITスキルを持たなくても、ITスキルを持つ人といっしょに開発ができる。自分が何が得意で、何が不得意かを知ることが大事」と話した。

セキュリティー面では、メンターには、学生団体のスタッフや教会から信頼されている人を起用。ユーザーが問題を報告できる機能もある。「新しいことを始める時に、間違いや失敗を心配してやらないというのではなく、まずやってみて、問題が起きたら謝り、その都度改善していくことが大切」を強調した。

「証し」「賛美」で開発

写真=左から中村さん、鍵和田さん、塚田さん

CALMではクリスチャン向けサービス開発をめざすプロジェクトCLIP(クリスチャン・ライフ・イノベーティブ・プロダクト)が始まり、「証しプロジェクト」、「賛美プロジェクト」が進行する。

「証しプロジェクト」は、伝わりやすい、整理された証しをまとめることをサポートし、発信するアプリ「AKASY」を制作している。同リーダーの塚本博希さんは「証しをブラッシュアップすることで自分の信仰が練られていくことになると思う」と話した。出来上がった証しがトピックや時間の長さで選択して見ることができる。

現状は、技術者、デザイナーを募集している。仕組みができれば、証しの中身について、牧師や出版、メディア関係者とも協力して取り組む。

「賛美プロジェクト」は賛美奉仕者向けサービス「I sambi pro」を企画。リーダーの鍵和田留都さんは「教会で賛美奉仕をしているが、日本語の賛美の楽譜を探すのは大変」と日本の賛美を取り巻く課題を述べた。

曲検索ができるデータベース、テーマごとのインデックス。セットリスト機能、コード変換機能などを想定する。著作権など法律上の問題にも配慮して進める。

恐れず次々挑戦できる環境を

最後にグーグル社で人工知能(AI)の自然言語処理を研究開発しているホアン・ナバーロさんと中村さんが「未来のクリスチャンサービスに」ついて対談した。

 

ナバーロさんはアルゼンチン出身。日本で就職し、ベンチャー企業を経て現職に就いた。前職ではデジタルマーケティングやサイト利用の最適化の技術開発もしてきた。

クリスチャンのITへの貢献について、「クリスチャンの価値観に一致するサービスの提供や使い方ができる。キリスト中心の生き方では、悔い改め、過去と違う生き方をするということが大事だが、ネットの世界では、過去の人生の記録が残り、消せない。『過去はこうだったが変わったのだ』ということを表せるサービス、ネットの設計を考慮できれば。ヨーロッパでは、個人情報保護委員会ができ、そこでは個人のデータは会社のものでなく、ユーザーに権利があるとされるようになった」と話した。

さらにネットの問題に触れ、「『ゴミを入れたら、ゴミが出る』と言われる。例えばAIがネット上のヘイトスピーチを学習して、そのような発信を繰り返す。対策としては、良いコンテンツが検索上位に上がるようSEO対策をするとともに、良いコンテンツをつくり続けることが大事」と述べた。

「心理的安全性」についても語られた。「個人が評価され、自分の意見を恐れずに言えるかどうか。グーグルでは、経験やスキルのレベルの差にかかわらず、いいアイデアを出し合い、聞き合うということが奨励されている。一方日本では、守りがベースで挑戦しにくい雰囲気がある。安全性や継続性が求められる」と語った。

中村さんは「基本的な安全対策はした上で、試作品をどんどん発表していくのがいいと思う。日本のクリスチャンの世界の中でも小さなスケールで始めてテストを繰り返して、関心を集めたものをどんどん掘り下げていくのがいいのでは」と応答した。

さらにナバーロさんは「スタートアップ(起業)の世界では最初のアイデアと違うものになるということはある。YouTubeも最初は『出会い系』のサイトをめざしていた。グーグルも始めは学術論文の検索のためにつくられた。変わることを受け入れて波に乗っていくことが大事」と勧めた。

高齢化、若者の減少など教会の将来の課題にも及び、自動化できるところは自動化し、人間関係や心に関する奉仕を進めることが提案された。

コロナ禍でオンライン礼拝が広がったことに触れ、「礼拝中心は重要だが、一方的にサービスを提供するだけという雰囲気がある。礼拝を大切しながら、受けるだけでなく、互いに励まし合うことを大切にしていきたい。コロナ禍で『なぜ教会に集っているのか』『なぜこのことをしているのか』『これを続けるべきか』が問われた。教会も変えるべきとことを変え、新しい形、新しいツールを使う機会にしたい」と勧めた。

「ネットの世界でも収益や利用率だけではなく、『有意義な時間』を重視する概念が提唱され、健康面なども配慮されたサービスがある。教会も気を付けたい。作業の自動化はいくらでもできるが、技術面だけではなく、人間的な事柄もある」と注意を払った。中村さんも「技術者だけではなく、牧師や様々な人がいっしょにやることが大事。人間のニーズだけではなく神様はどう考えているか、どう用いられたいかという視点が大切になる」と話した。

今回の主要なプログラムは「CALM」フェイスブックページの映像記録から視聴可能。

クリスチャン新聞web版掲載記事