自己主張や分断で混迷する現代において、無名の職人に創られた中世ゴシック芸術が教訓となりそうだ。『ゴシック芸術に学ぶ現代の生きかた N・ペヴスナーとA・W・Nピュージンの共通視点に立って』(近藤存志著、教文館、千320円税込、A5判)はそう評価する。

19世紀にゴシック・リバイバルが起きたが、そのキリスト教的側面は「他律と自律を超越した神の法によって成立する高次な社会の精神の復興運動」だった。

自己を超越した世界が表現されるとして、20世紀前半の芸術文化史家ペヴスナーは、当時最先端の「表現主義」芸術に中世芸術との共通性を見出す。同時代の神学者ティリッヒと共有する意識だった。

無名性、日常の芸術という観点では、手仕事に注目した当時のアーツ・アンド・クラフト運動とも共鳴した。


バッハもまた、自己表現ではなく、ニュートンが自然法則を発見したように、自然とその背後にある神の意志の美しさを音楽で表現した。『バッハ、神と人のはざまで』(音楽之友社、2千860円税込、四六判)の著者で、世界的なバッハ演奏家鈴木雅明氏はそう考える。

譜面からは聖書の言葉を表現する対位法や和声のほか、律法を表す「カノン」や「十字架音型」を発見する。古楽器の演奏法、周辺資料などを駆使し演奏を試行錯誤。表現するだけでなく、「伝達され」、「新たな創造を喚起する」ことを求める。

日常の中に神の意志を見つつ、光と闇、教会の内と外の対比、それを乗り越える十字架による調和という視点にはオランダ改革派の伝統もみられる。


劇場内にとどまらない活動をする演出家高山明氏は、アジアと日本の近代史や難民のテーマの作品などで知られる。著書『テアトロン 社会と演劇をつなぐもの』(河出書房新社、3千135円税込、四六変)で作品の背景を語る。

ハイライトは大分県などで実施された「ワーグナー・プロジェクト」だ。ワーグナー・オペラの街頭歌合戦を題材にするが、「街頭のオペラ」と言われるヒップホップで現代化した。そこでは経験者、初心者を含めた多様な有名無名の人たちによる、新たな共同体が生まれた。

この手法の源流にはルターの説教劇がある。ルターは一極集中の教会に対抗し、小さな教会を遍在させ、言語、メディア、祝祭など文化全体をリフォーム(改革)する地域の共同体を育てたと言う。

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