ホスピス・緩和ケアのこころと実際 スピリチュアルケアの必要性
柏木哲夫著、いのちのことば社1,980円税込、四六判

最新の精神医学を学ぶためにワシントン大学に留学されて、その3年目に末期患者へのチームアプローチに出会われた柏木哲夫先生は、帰国後ホスピス 病棟を淀川キリスト教病院に創設された。そして、死に逝く患者さん2千500人との心こもる交流から生まれたのが、本書である。

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この世を旅立つという誰にとっても重大なテーマが、柏木先生の深い信仰と、ユーモアの精神によって、生き生きと述べられている。

本書を読んで、一人ひとりを真に大切にするホスピスで人生の最期を過ごしたいと願うのは、私だけではないのではなかろうか。

また、柏木先生の師ソンダース医師の、「強い痛みのために入院したとき、牧師が来て祈ってくれるのでも、イライラに耳を傾けてくれる精神科医でもなく、まず痛みの原因を的確に診断し、痛みを軽減する薬剤を的確に判断し処方してくれる医師を」との言葉と、精神科医柏木先生が内科の研修をも受けられたことに、脳梗塞の苦悩を経験した者として、こころからうれしく思った。

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本書の様々な写真も、ホスピスの理解を助けてくれる。心理臨床家の私はブライバシーを心配するが、患者さんとその家族は柏木先生はじめ スタッフの皆さんへの感謝を込めて、写真の掲載を快諾されたのであろうと思う。柏木先生が写っておられない写真は、先生の撮影であろうか? 川柳をたしなまれるだけでなく、写真も撮影される?

臨床と教育・研究・啓蒙活動の合間に、ご自身の時間も大切にされる柏木先生の日々に、本書に登場される故河合隼雄先生が超多忙な公務のなかフルートの演奏をされたことを思い出した。

柏木先生が健康管理のために毎朝4種類の連動をしておられる写真は、パートナー道子夫人の撮影によるものかと想像する。

本書の最後に、「私を看取ってくれよ。先に逝くなよ。それ以外のことはもう何も望まない」とある。何と率直な温かい言葉であろうか。パートナーの寄り添いを願われる柏木先生の誠実さこそ、ホスピス・緩和ケアの神髄であると思う。

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柏木先生の、患者さんとその家族への愛、パートナーと同働者への愛、そしてキリストへの深い愛を、本書のあちこちから感じた私は、先生への尊敬の想いをいっそうと深めた。

読者の皆様に、日本スピリチュアルケア学会理事長柏木哲夫先生の数々の著書を通して、スピリチュアルケアと親しまれることを、切に期待する。     (臨床心理士)

クリスチャン新聞web版掲載記事)