現代美術の潮流とキリスト教神学が響き合う 立教・西原氏ら「あいち2022」代表者とシンポ
多元時代の「生」を対話
多元主義化した社会でいかに人々が共に生きていくか。美術館やギャラリーといった空間をこえて地域コミュニティーと持続的にかかわる現代美術は教会にもヒントを与える。
愛知県で国際芸術祭「あいち2022」(7月30日~10月10日)が開催されるに先立ち、立教大学文学部キリスト教学科主催の公開シンポジウム「現代に生きる芸術、文化、宗教—国際芸術祭『あいち2022』から—」(7月5日、オンライン)が開かれた。
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美術、キリスト教関係者など各地から400人近くが参加。現代美術の一線で活躍するキュレーター(学芸員)や美術家らと、キリスト教が対話する機会は日本ではめずらしい。きっかけは登壇者に共通する「愛知」という地域があった。
「あいち2022」監督の片岡真実氏は、森美術館館長や国際美術館会議会長などを務め、国際的に活躍するキュレーター。立教大学総長の西原廉太氏とは旧知の仲だ。愛知教育大学卒業後の数年間、西原氏が主事を務めた聖公会の学生センターで主日礼拝に参加していた。
同じころ、後に「あいち2022」の前身「あいちトリエンナーレ」の立ち上げにかかわる拝戸雅彦氏(愛知県美術館館長)は名古屋大学大学院生、印象的な瞳の人物や動物の絵で知られる美術家の奈良美智氏は愛知県立芸術大学修士を修了していた。
今回司会の加藤磨珠枝(ますえ)氏(立教大学文学部キリスト教学科教授)も愛知県出身。加藤氏は中世美術が専門だが、奈良氏をはじめ現代美術についても論評している。オンライン開催だったが、登壇者は親密なかかわりを大切にし、同大学チャペルに集まった。
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片岡氏は現代美術の潮流を解説した。多様化が進み、「西洋白人男性」というかつての〝主流〟が、多様なアイデンティティーに移り変わっている、脱植民地主義の動き、メタバースなど新しいテクノロジーへの期待が大きくなる一方、身体性への関心も高まっている。さらにコロナ感染拡大をへて、人種差別問題、地域の再評価、気候変動問題、オンライン化とリアルな体験、ウェルビーイングなど生きる意味にも注目が集まった。このような流れを受けて、「あいち2022」はテーマ「STILL ALIVE 今、を生き抜くアートのちから」を掲げる。
西原氏は、「キリスト教世界でも1960年代以降、植民地主義的な『北』から『南』への一方的伝道について、深刻な自己反省があった。いまや宣教の担い手は『南』が中心になり、『北』が宣教地になった」と指摘した。
洋式のものをそのまま持ってくる『土着化』とは異なる「Inculturation」(「文化内受肉」などと訳される)を強調し、その例として画家の渡辺禎雄の作品「最後の晩餐」を紹介。ジェンダーの問いかけとして、女性が十字架にかかる「クリスタ」像について触れた。過去・現在・未来と五感の体験ができる例として大聖堂を挙げた。
テーマ「STILL ALIVE」については、東日本大震災という「悲劇」を経験した東北の牧師の言葉を紹介し、「『にもかかわらず』、『いのち』の喜びを、ともに語り続けるということ。単に元の姿に戻るだけでなく、新しいかたちになること(復活)。パンデミックという大きな物語に飲み込まれることではなく、一人ひとりの物語が回復されることが大切になる」と語った。
シンポでは地域とのかかわりの具体例も挙げられた。「あいち2022」では名古屋市街地だけではなく、一宮市、常滑市、有松地区(名古屋市)の4会場で開催。それぞれの風土、伝統を踏まえた作品が展示される。
拝戸氏は、美術家と住民のかかわり、日ごろの地域行事への参加、展示場所の交渉、などを振り返り、「見るだけよりも参加している方が楽しい」と話す。奈良氏は北海道で住民と共に展示を催した経験を語り、「プロジェクトとしてではなく、自然と始まった。アートは見る人がいて完成する。絵を描くだけではなく、人とつながることが面白い」と述べた。
同シンポの録画がYouTubeチャンネル「立教大学イベント映像(公式)」から視聴可能。様々な作品、プロジェクトの詳細を見ることができる。【高橋良知】
(クリスチャン新聞web版掲載記事)
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