【連載】コンパッション共感共苦ー福祉の視点から⑫ AIと「共喜共泣」 故榎本てる子さんを偲びつつ
「ともに喜び、ともに泣く」生き方こそ
木原 活信 同志社大学社会学部教授
人工知能(artificial intelligence:AI)の研究の進歩は目覚ましい。特に最近話題になっているチャットボット(chatbot)をご存じだろうか。「チャットボット」とは、「チャット」(会話)と「ボット」(→ロボット)を組み合わせたIT用語で、人工知能を活用した「自動会話プログラム」のことである。なかでも最も注目されているのがOpen-AI社のChat-GPTである。
従来の検索エンジンに似ているが、単に知りたい用語の情報を教えてくれるだけではなく、「専門知識を持った人間が考えているかのような回答」が非常に自然な文章で示される。あらゆる分野の問いに、AIがビッグデータをもとに応じてくる。「人生の意味とは何か」や、「〇〇に関する礼拝説教」までも簡単にAIがつくってしまう! これを見た知り合いのベテラン牧師や大学教授はその精度に驚く半面、自分の存在意義をめぐって嘆いていた。すでにアメリカの大学ではレポートなどもChat-GPTが作成してしまうことでその教育効果を認めつつも、脅威として理解されている。
しかし、どんな優れたでAIであっても、他者の痛みや喜びへの身体的な共感(コンパッション)は不得手である。もちろん、機械的な感情表現は簡単に処理できるが、他者の痛みなどの身体感覚を伴った共感共苦はできない。AIは自らが他者の痛みに真の意味で(身体感覚をもって)応答して喜び、笑い、泣くことができないからである。
ところで、真にキリスト者として霊的であるとは何かを身をもって教えてくれた、榎本てる子さんが2018年4月15日に55歳の若さで召天してもう5年になる。「ちいろば先生」榎本保郎牧師の娘であるが、キリスト教界内外に今もその影響は続いている。彼女は父より受け継いだ福音信仰をストイックに堅持しつつ、重い病気を抱えつつも死の間際まで天真爛漫(らんまん)で明るく献身的に働き続けた。
亡くなる直前に、「私の葬儀には喪服は禁止、明るい服で見送ってね!」と言って皆を困らせた。その葬儀の日は多くの参列者で溢(あふ)れかえっていたが、突然雨が降り出したと思ったら雨があがり、晴れ間に虹がくっきりと出ていた。「喪服禁止」の指示を受け、おのおの自分の服装で、涙と笑顔と生前の感謝で彼女を偲(しの)びつつ天に見送ったことを思い出す。
彼女のことを惜しむ声は今も絶えない。私も友人として親しくさせていただいたが、関西学院大学の神学部で、キリスト教霊性論という講座の立ち上げ他、色々な活動を共にしてきた。彼女の周りには、社会から見放された人たち、マイノリティと言われた人たちが近づいてきていつもそこに不思議な連帯と輪ができていた。その姿は、イエスの周りをいつも取税人、遊女、病人、苦しむ人たちなど、社会に見放された人たちが囲んだように、彼女の周りには多くの苦しむ者がおり、そこにはいつも笑いと喜びがあり、安らぎと慰めがあった。
エイズ患者でLGBTQ当事者が、自らが人生に絶望していたきときのことを振り返り、「榎本さんが本当に苦しみに寄り添い、一緒に心底泣いてくれたことで私は死なないで済んだ…今生きている。ありがとう…」と葬儀で追悼しつつ、号泣していた。国家試験に何度も失敗していたある学生が、それに合格したとき、私もたまたまそこに一緒にいたのだが、彼女の喜び方が尋常ではなかったことを今も思い出す。
まさに、それは「喜んでいる者たちとともに喜び、泣いている者たちとともに泣きなさい」(ローマ人への手紙12章15節)にぴったりの人だった。それを「共喜共泣」とでも表現するなら、このコンパッションに基づく「共喜共泣」の生き方こそ、AIが躍動する21世紀の社会にあってキリスト者が「地の塩」として生き残れるのかどうかの試金石の一つではなかろうか。
( 2023年04月16日号 03面掲載記事)
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