碓井 真史 新潟青陵大学大学院教授/心理学者

私たちには自由が与えられている。法的に信教の自由も与えられている。子どもたちは、暴力から守られ、能力を伸ばして育ち、衣食住や医療が与えられ生きる権利を持っている(子どもの権利条約)。しかし、宗教の名のもとに虐待されてきた「宗教2世」の子どもたちがいる。

先日、日本経済新聞で宗教2世に関する書評記事を書く機会を得た。それだけ社会はこの宗教虐待の問題に注目しているのだろう。みなさんとも共有したい。

 

『カルトの子 心を盗まれた家族』(論創社)には、ごく普通の家庭がカルトに飲み込まれていく姿が描かれている。子どもの将来は「楽園」(宗教的救い)か破滅しかないと信じてしまえば、子どもを無条件に愛していたはずの親も、カルトに従う子どもしか愛せなくなっていく。

 

安倍元総理射殺事件を受けて世間の関心が高まる中、『宗教2世』(太田出版)も昨年出版された。誰にも相談できなかった宗教2世たちが語り始めている。だが、幼い時からカルトの中で育った人には、戻るべき本来の自分さえ曖昧だ。彼らは脱会後も苦しみ続ける。

 

今年出版された『みんなの宗教2世問題』(晶文社)には、驚くような体罰、経済虐待、ネグレクト、家庭崩壊、性暴力の数々が紹介されている。子どもたちは深く傷つき、アダルト・チルドレン(機能不全家庭で育った子)や、複雑性PTSD(発達段階の長期にわたる心的外傷後ストレス障害)などの心理的問題が発生する。

 

『カルト宗教 性的虐待と児童虐待はなぜ起きるのか』(アスコム)は、カルトが必然的に被害を起こすことを示している。カルトに支配された親が、子を支配する。体罰や放置にもカルトがお墨付きを与えてしまう。非常識な医療拒否や教育の軽視も、厳しすぎるしつけも全て、正しい子育てはカルトの指示通りにすることなのだと思い込まされる。カルトは親の愛をゆがませる。

昨年の新語流行語ベスト10にも入った「宗教2世」。しかしもちろん、宗教教育自体を否定しているのではない。幼児洗礼なども宗教虐待とはされない。それでも、宗教2世問題は新興宗教や、いわゆるカルトだけの問題ではない。紹介してきた書籍も含め、宗教2世には伝統的なキリスト教の子どもたちが含まれることもあるのだ。

 

『「信仰」という名の虐待』(いのちのことば社)は、教理的には問題のない教会でも、カルト化し信徒への虐待が起こることに警鐘を鳴らしてきた。牧師や長老に従うことこそが神に従うことだと教え込めば、虐待は容易に起こる。親の心が支配されれば、子の自由も奪われる。
現代はカルト化が起きやすい時代だ。熱心さが暴走することもある。社会は福音派にも厳しい目を向けている。私たちの弱さと問題を自覚し、自浄作用を働かせ続けることが大切だ。信仰をしっかり持ちつつ、冷静さを保つことが必要だろう。信徒や子どもを支配せず、健全に育てたい。自由を得させてくださる神に喜ばれる教会と家庭にしていこう。

(2023年05月07日号   03面掲載記事)