碓井 真史 新潟青陵大学大学院教授/心理学者

〝誤情報〟は避け 寛容な話し合いを

「聖書の中には『恐れるな』という言葉がちょうど365回出てくる」。複数の方からお聞きしました。そこで、実際に数えてみましたが、百数十回でした。どなたか、365回の根拠をご存じの方がいらっしゃれば、教えていただけると幸いです。

一時期、「江戸しぐさ」というマナーが流行(はや)り、学校の授業でも使われました。マナー自体は良いのですが、江戸しぐさを広めた団体は、明治政府による「江戸っ子大虐殺」が行われたとの陰謀論を主張する団体でした。江戸しぐさの話自体、過去を美化した架空の話という指摘があります。「水からの伝言」(水に良い言葉を聞かせると美しい結晶ができる)も、良い話かもしれませんが、科学的には根拠がありません。

ニセ科学や都市伝説に陰謀論。世の中は、不思議な話の大流行です。ある教会の牧師は、銀行ローンの審査が通らなかったとき、フリーメイソンによる妨害の可能性を語っていました。ある有能で思いやりにあふれた牧師は、「イルミナティには気をつけた方が良い」と言っていました。教会の講壇から、ネットのフェイクニュースが語られてしまうこともあります。

世界には、陰謀があると思います。しかし、報道されるまで庶民が知ることはないでしょう。イルミナティは、歴史学的にはすでに消滅した秘密結社です。それが嘘だととするならば、世界中の学者やマスコミ人が無知なのか、それとも全員が陰謀に加担し、秘密を固く守っているのでしょうか。そして、それほどの巨大な秘密なのに、なぜか庶民の耳に入ってしまったのでしょうか。

ある会社が、調査結果をごまかすことはあるかもしれません。ただ、世間が喜ぶ陰謀話は、世界征服や人類滅亡を狙っているなどの大きな話です。東日本大震災は、アメリカの地震兵器によるもの。新型コロナのワクチンは、闇の政府による陰謀で、体内にチップを埋め込まれたり、遺伝子が書き変えられたりする。そんな大ニュースを知ってしまえば、大切な人に伝えなくてはなりません。そこで人間関係が破壊される悲劇も生まれています。

愛する家族、信頼する友人、尊敬する牧師。そのような人たちが、ネット情報などを信じて、突然奇妙なことを言い始める。とても悲しくて、悔しい。一方、相手はマスコミと政府に人々はだまされていると信じて、ネットに流れる「真実」を伝えたいと必死になる。互いに愛が動機ですが、言葉が荒れ、傷つけ合うこともあります。

神学者の森本あんり先生は、「キリスト教と陰謀論には親和性がある」と語っています。気をつけなければ、教会が誤情報を発信し、社会からの信頼を失いかねません。ただ、相手を無知とか陰謀論者として切って捨てれば良いとは思いません。互いに寛容の心をもって話し合っていくことが大切ではないでしょうか。

2023年07月09日号 03面掲載記事)

□―――――――――――――――――――――――――□
【お知らせ】★週刊「クリスチャン新聞」がリニューアルしました!!★

☆新たな装い 今求められる情報を伝道牧会の最前線へ
☆紙面レイアウトを刷新 文字が大きく読みやすく
☆独自取材による特集企画で教会が今直面している重要テーマを深く掘り下げる特集企画
☆教会の現場の必要に応じた新連載が続々スタート

□―――――――――――――――――――――――――□

★「クリスチャン新聞WEB版 https://クリスチャン新聞.com/csdb/」(有料)では、
1967年創刊号からの週刊「クリスチャン新聞」を閲覧、全文検索(1998年以降)できます。