ピアノを連弾する木村りえさん(写真手前、低音側)と、りささん(写真奥、高音側)

木村りえさん(写真手前)、りささん(同奥)は、双子の姉妹でピアニスト。「りえ・りさDuo」として演奏活動をしている。そして、ふたりとも全盲である。

りえ・りさDuoは6月17日、オンラインコンサートを開催した。対面での演奏機会が遠のき、「何とか音を届けられないだろうか」との思いが強まり、自宅に環境を整えた。

定員の98に対し申込数は97。そのうち視覚障害者も十数人が参加していた。

W.A.モーツァルト作曲の「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」の、ふたりの編曲による連弾や、成立からちょうど300年となる、J.S.バッハ作曲のカンタータ第147番「心と口と行いと生命もて」より、「主よ人の望みの喜びよ」の題で知られるコラールなどが演奏された。

曲の合間には親しげな語り口で曲紹介とトークが展開され、自宅ならではのリラックスした雰囲気に満ちていた。

今回のコンサートは、映像は無く音声だけの配信となった。通常、コンサートで見られる光景といえば決まっている。観客の拍手と演者のお辞儀があり、演者が楽器に向かうと拍手がやむ。静寂の中で演者は心を整え、観客の目は演者に注がれ、音楽が始まるのを待つ。

それを見ないでいるとすると、演者が演奏に向かい心を整えているのを、想像するしかない。最初の音がいつ耳に飛び込んでくるかを予見できないため、息づかいまで聞き漏らさぬよう耳を澄ませていることになる。見ていても緊張が極まるこの時間を、見ずに過ごす緊張感は、その後の音楽の受け取り方を鮮やかなものにする助けにふさわしかった。

ふたりは、「当初はメールでの告知しかしなかったが、墨字のチラシや点字のチラシを作ってくださった方々がいた」、「生まれたばかりの企画なので、改善していきたい。秋頃にまた開けたらいいかな。もちろんホールなどどこかの会場でも」と振り返った。

 

新たな課題うまれても 隣人となら乗り越えられる

今回のコンサートの背景や、コロナとオンラインの時代の課題について、ふたりは次のように語った。

―――手作りのオンラインコンサートなので、クオリティーも鑑み無料にした。映像も配信するなら、カメラや配信ソフトの扱いを晴眼者にお願いしなければならず、費用面でも簡単ではない。Zoomは配信ソフトが不要なので選んだ。

参加者の中に、操作音やスクリーンリーダー(画面上の文字を読み上げるソフト)が他の参加者の迷惑になっていないか、と気にする方もいたと聞く。

ミュートの操作方法を、キーボードショートカットで教えてくれても、6点入力(F,D,S,J,K,Lのキーを点字の六つの点に割り当て、両手の人差し指、中指、薬指で同時に押し、点字と同じように文字入力する方式)の使用者には通じにくい。

視覚障害者が晴眼者に何かを説明する時は、用語を〝翻訳〟する必要がある。ボタンの形や位置は想像するしかない。Zoom上では、質問者の疑問が解決したのかすら、確かめることができない。演奏中はスクリーンリーダーを止めるため、もしトラブルが起こっても分からない。晴眼者と共同でZoomを管理し、参加者のミュートなどを手助けしてもらうことは、今後のアイディアの一つ。

障害者が感染症にかかると、介助者を自宅に呼べなくなるなどの不便が起こる。介助者がいなければ、検査に行くにも救急車を呼ぶしかない場合も。抗原検査キットや血中酸素飽和度の測定器は、音声で数値を読み上げる機能が無く、私たち全盲には使用不可能と思われる。

私たちの教会は、オンライン礼拝をYouTubeからZoomに切り替えた。意思疎通が双方向にできるようになり、奏楽の奉仕を自宅からしたことも。教会は参加者を把握できるようになったため、参加するはずの人が参加していなかったら、家に様子を見に行ってみるなど、きめ細かいサポートをこの先もずっと続ける予定だ。

対面で存在するバリアが、オンラインでもそのまま存在することがある。例えば、あるクリスマス・イヴ礼拝のオンライン配信で、聖書箇所や賛美歌の番号がプログラムや字幕だけに書かれ、普段はあるはずのアナウンスが無かったと聞いたことがある。情報発信者の感覚が、対面でもオンラインでも変わっていないことが理由ではないか。

オンラインの問題は、助ける人が隣にいないこと。個々人の技量の差がそのまま現れる。障害のある人は取り残されてしまう。教会は、当人の感想を聞き取り、改善していければ良いのではないか、と思う。―――

2023年07月16日号 04面掲載記事)

 

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