作品の味わい深める愛の伝記小説

『あたたかき日光(ひかげ) 三浦綾子・光世物語』は、三浦綾子記念文学館(北海道旭川市)館長・田中綾氏による、北海道新聞での連載小説の書籍化。三浦夫妻は、光世が14歳から90歳までつけ続けた日記を遺贈。著者はその研究をもとに、夫妻の姿を生き生きと、立体的に描き出した。特に、光世にとって綾子がいかに「めんこい(可愛い)」かについてなど、実にまぶしい。

光世は綾子の口述を筆記しつつ、時には「熟していない」と数日間再考させる、自若の編集者にも見える。一方、登場人物と自分たちとの共通点に気付いては、綾子の真意を計りかね、結婚生活や綾子の元婚約者のことで悩む光世もいる。三浦綾子を愛した男の逡巡は、三浦作品の味わいに、さらなる奥行きを与え、その中で反響する。

 

歌で拓かれる三浦文学の新たな地平

『混声合唱組曲 信仰、希望、愛 三浦綾子への頌歌(オード)』は、「春を待つ」「時代を見つめる」「命の讃歌」「いいこと ありますように」の4曲からなる組曲の楽譜集である。作詞の難波真実(まさちか)氏は三浦綾子記念文学館の事務局長。三浦の作品と生涯を研究している。その詩は、三浦の口述筆記の特徴である「柔らかい言葉づかい」へのオマージュに満ちる。英詞も収録され、譜面にはローマ字も振られる。頁下部には、聖句と三浦作品からの引用が書かれ、表現を深める助けとなる。

「命の讃歌」は、2パターンの楽譜が収録される。一つは、組曲の終曲を導き出す結尾を持つ。空高く舞うような讃歌から、変ロ長調の持つ、切なくも明るい性格が、たなびくように遠ざかる。神秘的な楽想から視界が晴れてゆくと、ヘ長調の終曲「いいこと ありますように」が現れる。この終曲は、松下耕の得意とする無伴奏合唱だ。
もう一つのバージョン「Alternative Ending」では、コーダで讃歌が回帰し、大クライマックスの結論に達する。この一曲だけでも、抜粋でない完全演奏として成立する。より多くの合唱団のレパートリーに、新たに拓(ひら)かれた三浦文学の世界が加わるだろう。

初演は2022年10月30日、「三浦綾子生誕100年記念 あたたかき日光(ひかげ)コンサート」で行われた。指揮は松下耕、ピアノは石井ルカ、合唱はヴォーカルアンサンブル「Birds of a feather」による。YouTubeチャンネル「音楽之友社出版部 ONGAKU NO TOMO EDITION」にて、初演の全曲を視聴できる。


『あたたかき日光(ひかげ) 三浦綾子・光世物語』
田中綾 著
北海道新聞社、2023年
A5変型判、1980円税込

 


『混声合唱組曲 信仰、希望、愛 三浦綾子への頌歌(オード)』
松下耕 作曲、難波真実 作詞
音楽之友社、2023年
A4判、2420円税込

( 2023年09月10日号 03面掲載記事  ,  )

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