碓井 真史 新潟青陵大学大学院教授/心理学者

放置・容認・無関心 教会の加担は?

1999年。週刊文春が14週にわたって問題を追及。2006年には、民事裁判で記事の事実性が認定。だが新聞の扱いはごく小さく、テレビのワイドショーも一切取り上げなかった。しかし今年の3月。英国BBCが一本の長編ドキュメンタリー番組を放送する。「J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル」。半世紀以上にわたり数百人の少年が被害を受けたとされる、ジャニー喜多川氏による性加害問題だ。

事態は急変する。国内外のメディアが報道を始め、国連人権理事会も調査を開始した。もはや世界的な話題だ。ジャニーズ事務所の記者会見は生放送された。会見では厳しい質問が相次いだ。しかし国連は、「日本のメディアは数十年にもわたり、この不祥事のもみ消しに加担した」とも述べている。〝罪なき者まず石を投げよ〟だ。テレビは自己反省が苦手だ。それでもNHKは、当時の関係者らを取材した番組を放送し、この問題をタブー視していた当時の空気を伝えている。

また、たとえば脚本家の倉本聰氏も、ジャニーズに不利益なことをすれば露骨な圧力がかかったと述べている。各週刊誌の関係者も、広告が減るなどの被害を証言している。マスコミは政府を糾弾し大企業とも戦ってきたが、巨大芸能プロダクションには逆らえなかったのだ。

事件はどうすれば防げていただろう。専門家による特別チームよれば、喜多川氏は、通常とは異なるものに性的欲求が向く性嗜好異常だった。被害防止のためには、社会的地位や仕事の有能さに関わらず、誰もが加害者になる可能性を忘れてはいけない。

さらに問題なのは、周囲による性加害の放置と容認と、社会の無関心だろう。ある被害者は、当時意味もよくわからず姉に相談したところ、「そんな気持ちの悪いことを言わないで」と叱られたという。以後彼は、数十年にわたって沈黙を続けたのだ。

さて、この問題はキリスト教会にとって対岸の火事ではない。カトリックの問題は世界的スキャンダルとなった。教会内の男女が性被害を受ける問題は、プロテスタントでも福音派の中でも起きている。牧師が加害者の場合もある。

誰も、そんなことを考えたくはない。あってほしくない。しかしその思いが、加害者擁護、被害者非難、見て見ぬふりにつながりはしなかっただろうか。楽しく平和な教会を守りたい思いが、結果的に被害者を見捨てることにならなかったか。

教会内での性的問題。口にするのもはばかられる。子どもたちに、どう説明すれば良いのかわからない。しかし、だからといって事なかれ主義では、性加害のもみ消しに加担していることにはならないだろうか。

被害を受け泣いている人がいる。必死の思いで打ち明けたのに、周囲の冷たさに絶望している人がいる。大手企業はジャニーズのCM起用を取りやめた。人権に敏感でなければ、企業も教会も社会の信頼を失うだろう。

2023年10月08日号 03面掲載記事)

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