【特集フォーカス・オン】「牧師夫人」を考える②
特集
「牧師夫人」を考える②
日本は特殊な文化? 曖昧な役割が代々続く――
「牧師夫人像」を押し付けないで
部長夫人、医者夫人、弁護士夫人…。大統領夫人、首相夫人、社長夫人。前者は見慣れない言葉だが、後者は見聞きしたことがあるのではないだろうか。管理職、医者や弁護士も女性が珍しくない時代となったが(それでも「女医」など区別されることはあるが)、いまだにトップは男性がなるものという固定概念が「夫人」という呼称を生んでいるのだろうか。また社長「夫君」など、男性に付ける敬称付きの呼称はない…となると、「女性」にだけ課せられる役割があるということなのか。夫が牧師の女性を指す言葉、長年キリスト教界で使われてきた言葉「牧師夫人」。本紙では前回(10月22日号)に続き、当事者たちがその自分の置かれた立場や役割、環境についてどう考え、また何を課題としているのかを、アンケート結果から紹介する。30代から60代、9つの教団・教派と単立教会に属する女性たちからの回答があった。
◆「牧師夫人」は日本独自なのか?
アンケート回答を読み込んでいく中で、気になったことがある。これは、日本独自のものなのか海外の教会でもいわゆる「牧師夫人」の明文化されない曖昧な役割が存在するのか、ということだ。アメリカ、イギリス、ブラジル、韓国などの事情を在住経験のある方々から聞いてみたが、「各教会によって違うだろうが」という但し書き付きではあるが、概ね日本ほど「牧師の妻」が多くの役割を無償で担っている国はないようだ。聞いた国はクリスチャン人口が日本よりも多く、教会の規模が大きいことで、スタッフが複数いたり、特別な訓練や学びを受けた信徒も多いので、牧師の妻だけではなく、牧師自身にかかる負担が分散されているということなのかもしれない。
なぜ日本に〝牧師夫人文化〟があるのだろうか。よく似た存在として、「お庫裏(くり)さん」「坊守」と呼ばれる方たちがいる。僧侶、住職の妻だ。一説には妻帯が許されなかった時代に妻を隠語で呼んでいた名残ということらしいが、そのこと自体も、まるで物か付属物かのような名づけ(庫裏は本堂に対する僧房や厨房を指し、坊守は寺の番人や身分の低い僧を指す言葉)も、まさに男尊女卑。そして、「牧師夫人」のあり方も、この日本の文化の影響を受けているとしても不思議ではないのではないか。
◆悩みを話せる相手
多くの女性たちが、まず悩みを話せる相手として「夫」をあげている。夫婦間でしっかり、問題をシェアし、祈り合えているということか。そしてやはり同じ「牧師の妻」の友人に話すという方も多かった。
「信徒には話せない」という声も多い。つまずきにならないため、特定の信徒と親しくなることへのためらい、他の信徒への配慮などがある。「同じ教団の牧師夫人の先輩には話せない」という意見も。「私の頃はこうだった」というその人の理想を押し付けられることがつらいという理由。
少ないが、複数回答にもかかわらず、「夫」をあげなかった方、「全くいない」という回答があったことを現実の課題として受け止めたい。「夫は良き相談相手だが、男女の性質の違いからお互いの理解には限界がある。メンターなどの相談相手や相談機関があると良い」(さーちゃん、40代、牧師妻歴10年~)という声も。
◆夫、教会、教団に望むこと
夫には、自分や家族との時間をしっかり作ってほしいという声が多い。教会・教団に望む「休みがほしい」とも重複するが、牧師の役割、仕事の範囲も実は曖昧な部分が多く、悩み相談やお見舞い、急な葬儀など、24時間365日対応という方も多いだろう。当然家族もその影響を受ける。教団や教会に休みの規定がなく、「20年間、日曜日の休みをいただいたことがありません」(NPさん、50代、牧師妻歴20年~)などの声も。
交わりの場や学びの場を求める声もあるが、経済的、また時間的な余裕がない場合も多いという。
「牧師夫人」という何か特別なものではなく、自分らしく一人の礼拝者でいたい、という声も多数。「牧師夫人」や(教職ではないのに)「先生」と呼ばれることに違和感を覚えている人もいる。「牧師夫人という実態のないイメージ、前任者と同じことをしてほしいという期待に結婚当初苦しんだ。牧師夫人という働きはない。その人たちが召しにしたがって自分らしく神と教会に仕えることができるように最近教団規則が変わった(牧師の妻に対する曖昧な扱いや混乱を整理)ことは評価できる」(SCさん、40代、牧師妻歴20年~)。
教職者として、夫と共に教会に仕えたい願いをもちつつ、教団の規定でその道が開かれない女性たちもいる。
謝儀についても多数の意見が寄せられた。「牧師の妻は教職でも謝儀がほとんど支払われていないか、夫の半額程度。自分の働きはその程度かと軽視されているように思う。謝儀のことをいうと肉的なことだという人もいるが、謝儀を通して教会が牧師夫人に対して感謝を表すことができ、牧師夫人も教会に対して感謝が生まれ、働きに対して責任感が生まれるのではないかと思う」(関西系マルタさん、30代、牧師妻歴10年未満)。
今回、牧師の妻をテーマとして声を聞いてきたが、牧師自身、牧師子弟、家族のあり方も今一度問われており、また役員やその家族、宣教団体スタッフやその家族のあり方にも共通する課題があるようだ。
〝「牧師夫人」を考える③〟(2024年1月28日号掲載予定)は超教派による「女性ミニストリーワーカー」のための集会を企画した大島重徳さん、裕香さん、豊田信行さん、かなさんの座談会をご紹介します。今後も牧師の妻、いわゆる「牧師夫人」のあり方について考えていきたいと考えています。このテーマに関するご意見・情報を、以下のリンクからアクセスしてお寄せください。
【フォーカス・オン アンケート】
(続く)
(2023年11月12日号 04面掲載記事)
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