この地域に教会を残したい

教会が合併する場合、通常会堂は一つにし、それぞれの信徒はすべてその会堂に集って、一か所で礼拝する形をとるが、今春東京西郊に設立された日本キリスト教会「多摩地域教会」は、二つの会堂とそこに集う信徒をそのまま残す形で一つになった。同教派既存の二つの教会が、言わば「新設合併」する形で生みだされた教会である。今まであったそれぞれの会堂を「礼拝所」とし、一つの教会で二つの「礼拝所」を持つ。4月30日には近隣の教会を招いて教会建設式が行われた。

日本キリスト教会「多摩地域教会」は、既存の東京中央伝道所(久保義宣牧師=引退)と府中中河原教会(大石周平牧師)を、それぞれ「国立谷保礼拝所」「府中中河原礼拝所」として、二つの「礼拝所」を持ち、そこに連なる信徒と共に礼拝を捧げている。牧師は大石氏1人。長老会も一つ、新たに組織された執事会も一つ。1教会で複数の礼拝所を持つ「地域教会」と呼ばれる試みの概要をまとめ、それを進めた長老、牧師の声を紹介する。

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互いの歴史を尊重し、支え合う教会合同を

長老制を取る日本キリスト教会は、北海道、東京、近畿、九州、四つの「中会」で「大会」を構成する。「東京中会」は関東一円に東北を加え、さらに長野、静岡までをカバー。教会が広範囲に存在するため、地理的に近い教会がつながり、東京の多摩、神奈川の相模原にある6教会の牧師により「多摩・相模原地区牧師会」が形成されていた(現在は世田谷地区も加わる)。そしてこの交わりのうちに、東京中央伝道所(東京中央)と府中中河原教会(府中中河原)とがあった。

二つの教会の合同が検討される以前、2020年の時点で、この牧師会に属する牧師は5人(1教会は無牧師)。当時年齢は1人が80代、3人が80代目前で、残る1人が40代。東京中央では、牧師の引退に備え「牧師招聘委員会」が組織されていた。しかし、牧師の数がすでに十分ではなく、引き続き引退が見込まれ、教派の神学校で学ぶ学生がその必要を埋めていく展望は見通せない状況にあった。他の教会から牧師を招くということは、新たな牧師不在の教会を生じさせることを当然意味する。そのような中で発案されたのが「地域教会」というモデルだった。

日本キリスト教会では、長老が複数いて小会(長老会)を組織し、経済的に自立している教会を「独立教会」と呼び、長老を立てるに至っていない教会のことを「伝道所」と呼んでいる。伝道所は小会を組織できないので、委員会を置く。中会が伝道所に牧師を派遣して委員会の議長とし、その指導のもとに小会を組織できる教会へと成長させていく、というのが今までのモデルであり、各個教会主義よりも「中会(地域レベル)の教会性」を重んじる日本キリスト教会としての「伝道」の在り方である。

今回建設された「地域教会」は、近隣にある複数の教会・伝道所が、伝道所を独立させた上で対等合併して1個の教会となり、会堂は、それぞれの地域で重ねられた教会の歴史、信徒の生活を継続できるよう複数の「礼拝所」として残す形態をとる。信徒は、これまでと同じ会堂にそれぞれ集って礼拝を守り続けることが可能である。

「地域教会」の発想の基本は、牧師不足の現状の中、これまでの宣教の歩みは各地で引き継ぎながら、従来の枠組みを越えて共に立つ長老・信徒を育て、人的にも経済的にも支え合いつつ、キリストを頭とする共同体に共に連なっていくというところにある。東京中央は長老のいない伝道所で、牧師の引退を控えていた。経済的に自立することの困難はあったが、長老として立つことのできる信徒はいる。府中中河原は、独立教会として小会を組織していたが、独立維持が数年後には困難になるとの予測があった。そこで、地理的にも近い両者が合併して新たに小会を組織し、経済的な強化を図り、二つの教会を礼拝所として残しながら、新たな一つの「地域教会」となることが提案された。
近隣とは言え、東京中央と府中中河原は、成り立ちも違い、それぞれ50年、30年に及ぶ教会形成の歴史を持ち、その中で信徒は育まれ、それぞれ教会の文化を培い、伝統を守ってきた。牧師会を通しての牧師同士の交流はあったが、信徒レベルはおろか、委員会、長老会としても交流はなく、互いに面識もほとんどない状態ではあった。「地域教会」の提案を受けて、その可能性を検討するため、東京中央の委員全員と府中中河原の長老・執事全員に牧師を加えて、合同のための委員会を組織した。

2021年6月以降、「合同委員会」として7回、「準備実務委員会」と名称を変えて10回の委員会を重ね、同時に東京中央から長老を立てるための、候補者の訓練を行なった。説教者交換、「信徒の集い」を通しての、信徒レベルの交流。最終的に各教会での総会、中会での手続きをへて、「多摩地域教会」が今年3月に建設された。

現在多摩地域教会では、日曜日に、二つの礼拝所で、時間をずらして礼拝を持っている。各礼拝所担当の長老が2人ずつ、執事が3人ずついて複数職務を担い、牧師と対等の立場で協力しあい、二つの地域に開かれた一つの教会形成に仕えている。

この場所を無くす訳にはいかない

積み重ねた伝道の歴史 地域と密接な信徒の生活

各礼拝所の担当長老である、川上俊武氏・長谷部一郎氏(国立谷保)、奥野玲子氏・後藤俊文氏(府中中河原)に話を聞いた。

川上
将来への危機感は、両方の教会が持っていた。この会堂も苦労して耐震工事をし、改築したばかり。信徒も捧げた。求道者もいれば、近隣のミッションスクールから来る生徒もいるこの場所を、無くす訳にはいかなかった。その中で今回の提案を聞いた。機会に恵まれたと思う。その後もすべて物事がうまく進んでいった。礼拝所は別だが、一つの教会という意識を、自分は強く持っている。でも今はまだ器ができた段階。教会員どうし、一つになっていくには時間がかかるが、信徒の集いなど交わりの機会を重ね、少しずつ一体感が出てきていると感じている。

長谷部
この伝道所を残したいという気持ちが強かった。中会の伝道局委員もした自分としては、本来ならば伝道所を教会にしなければ、という思いもあった。すでに引退した牧師を無理してでも招聘することも、選択肢の一つだったが、積極的に伝道を考えるなら、大石牧師の若さ、新しい考えを存続の可能性と考え、前向きに受け止めた。今いる4人の求道者も、この教会の伝道の積み重ねであり、この場所があればこそ続いている。教会の形態に変化はあったが、信徒は肯定的に受け止めていると思う。

奥野
この合併の話は、こういう時期にこうやってみてはどうかと、神様から与えられた一つの指針の様な気がした。こうすれば教会はやっていけるというか。両方の教会の長老、委員が、2年間毎月顔を合わせた準備期間が良かった。今も、長老と執事全員が集まって小会をしている。お互いの礼拝所のことを持ち寄って話し合い、経済的にも助け合えている。個々に独立するのもいいが、汲々としてやっていると、活動は小さくなっていく。二つの群れが一つになって一人の牧師を支えることは、神様から与えられた恵みだと思っている。

後藤
教会がこの地域全体に対して福音宣教の責任を持てるようになれば、と考えているが、それは1教会が点としてではなく、複数の教会、礼拝所がつながり、面として社会に働きかけていくことだろう。複数がさらに広がることも考えている。それは中会全体で一つの教会ということともつながるはずだ。それでも、それぞれの教会の立場を尊重することが前提。相違点を持ったままだが、一つになることを意識して、あまり無理することはない。まず小会が一つになっていければよい。

国立谷保礼拝所で行われた教会建設式で

 

隣人と共に何ができるか

寄稿・大石周平(多摩地域教会牧師)

区別すれど分離せず、一致すれど混同せず

教会建設後8か月が過ぎ、主の日に2礼拝所を行き来する新生活にも、にわかに律動が生じてきた。多忙さをご心配いただくことも多いが、国立の丘から府中まで、電動自転車で駆け降りる主日の心は軽やかだ。宗教改革記念日には地域教会として初の合同礼拝と信徒の集いを行い、普段別々に礼拝する約40名が一堂に会した。

通常は、2か所の礼拝で新約冒頭の三書=いわゆる「共観福音書」を講解する。ライトモチーフは「一つの福音に響く多声」。マルコの順番でイエスの福音を語るが、国立ではマタイ、府中ではルカの強調点に焦点を当てるため、筋道は別様に導かれていく。木曜は合同の祈り会に、会場は交替で集う。目下主題は「信仰告白のハーモニー」。概して1教会の一致を強調する場合も、2礼拝所の多彩を強調する場面もある。区別すれど分離せず、一致すれど混同せず。そのバランスが肝である。

このたび長老と執事が按手をもって立てられた、、、、、、、、

2023年12月10日号掲載記事)

府中中河原礼拝所。講壇に立つ大石牧師
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