【レビュー】『東京都同情塔』『悲劇を越えて』『カルヴァンの救済の神学』『忘れられない仕打ちを赦す』
「バベルの塔の再現…」。今春の芥川賞受賞作品『東京都同情塔』(九段理江著、新潮社、千870円税込、四六判)は、そう始まる。マイノリティー、ジェンダー…訴える側の切実な声が、受け取る側で律法主義的にとらえられる。
そんな現代の言語状況が浮かび上がる。文章構築AIが「正しさ」を羅列するが、そこに「魂」はない。「善意」や「正義」を積み上げた「東京都同情塔」は、無情な動員と分断を生む。終盤に塔の建築家は、ある「告白」をする。人を殺す言葉ではなく、人を生かす言葉が待望される。
その意味で本書は現代の「預言の書」とも呼ばれる。全編にわたり聖書のモチーフがある。特に「この人を見よ」(ヨハネ19・5参照)の密かな引用は様々な考察を生みそうだ。
バベルの塔に関するエッセイで、神学者R・ニーバーは「人間の達成は、そのもろもろの欺瞞を正当化するほどまで偉大なものには決してなりえない」と言う。さらに塔の内側からは「その限界とごまかしを理解できない」と指摘する。同エッセイを含む『悲劇を越えて 歴史についてのキリスト教的解釈をめぐるエッセイ』(R・ニーバー著、髙橋義文・柳田洋夫訳、教文館、3千190円税込、四六判)では、政治、哲学、聖書の間に立った著者の預言者的視点をうかがえる。
自然破壊、虚偽、戦争…飽くなき欲望の「バベル文化」。キリスト教哲学は近代的世界観の暗部と根底をあらわにする。この問題意識で『カルヴァンの救済の神学-救いの恵みの漸層法-』(春名純人著、教文館、4千180円税込、A5判)は、被造世界の回復に注目した神学者A・カイパーを経由して、カルヴァンの注解書を読み解く。被造物の虚無とうめきに言及するローマ8章が中心となる。注解原文から概念の展開を追い、救いの「漸層法」との関連を明らかにする。
上から目線の「同情」ではなく、共に苦しむ「共感」(コンパッション)が大切か。『忘れられない仕打ちを赦す 私がたどった解放への旅路』(リサ・ターカースト著、高野美帆訳、いのちのことば社、2千200円税込、四六判)は著者が同じテーブルでゆっくりと語りかけてくれる姿が思い浮かぶ。自らの痛みも開示し、赦しを語りながら、先を急がず、読み手の感情を想像する言葉を添える。「平和の対義語は混乱ではなく、身勝手さ」だと言う。赦しはプロセスであり、「平和は赦しの人生の証し」と語る。
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