グリーフケアという言葉は、いったい日本の社会でどこまで知られるようになったのか。

一般にグリーフは「悲嘆」と訳され、その典型は大切な人と死別した悲しみをさす。また広くは喪失全般もグリーフということになる。例えば年度始めに転校すると、生活環境も変わり、友人とも別れ、多重な喪失を味わうことになる。さらにグリーフにケアを付けると、悲嘆にくれる人を援助するという意味になる。

こうした分野の言葉は心なしか理解しにくい感じを受けるが、岩上先生には前作でも感じたことであるが、使う言葉ひとつひとつが咀嚼(そしゃく)され、丁寧に説明されている。先生の率直で体験に裏打ちされている臨床家らしい物言いがある。

この耳慣れない「グリーフ」という言葉との出会いも先生らしい。それは、大学院のプログラムで自死遺族の方々からお話を聞かせていただくところから始まる。このとき、先生は聴き方によっては話し始めた人の思いを封じ込めてしまうこともあるということを知り、聴くということについて学ぶことの必要性を自覚するのである。まさに本書で実現していることである。そして、「聖書は神様からの人へのグリーフケアに満ちています」など随所に見られる信仰と心理臨床の統合された言葉はバランスが良く、説得力がある。

また本書の鍵となる傾聴のことについても、物語(ナラティブ)という詳細な説明を受けなくても自然と心に入ってくる。先生が研修などで使いこなしてきた伝え方が本書に引き継がれている。

そしてこの本の最大の功績は、グリーフケアの必要性を教会やクリスチャンに伝え、大きくアピールしたことだと思う。そこには実践の書であり、信仰の書であり、学問の書である本書の魅力が輝いている。数年すればこの書で学んだ方々が活躍しているに違いない。
評・藤掛明=聖学院大学教授

 

『聴くことからはじまる わたしはあなたとともにいる シリーズ「キリストの愛に基づくグリーフケア」』
岩上真歩子、いのちのことば社 2,200円税込、B6判