弁護士・崔信義さん

教会や慈善団体など公共性のある団体へ寄付する「遺贈寄付」が広がっている。しかし遺言書作成などが煩瑣(はんさ)でトラブルが起きる場合もある。キリスト教NGOで「遺贈寄付」に取り組む崔信義(さい・のぶよし)弁護士=写真=に、注意点や今後の展望を聞いた。

「遺産の一部を献金したい」

崔さんは日本の東北生まれで東北大学大学院博士課程修了(法学博士)。日本国際飢餓対策機構理事、社会福祉法人キングスガーデン三重評議員を務める。取扱業務は一般民事(相続、遺言、企業法務、キリスト教関係NGO法務)、特に、広島長崎の原爆訴訟で放射線被ばくとガンとの法的因果関係を専門としてきた経歴がある。現在は東京を拠点に活動している。

崔さんは、所属教会で、「遺産の一部を教会に献金したい」という相談を受け支援することが相次いだ。「ご本人は一人暮らしで親戚とは疎遠。親戚も『面倒なことは避けたい』と遺産相続を辞退する場合がある。一方、教会では恵みを受け、礼拝や病院への送迎でお世話になるなど日常のかかわりがある。だから教会に遺贈したいと思うのは理解できます」

2022年度、全国で相続人のいない財産が過去最多の768億円。この9年で2倍。20年で7倍となる。相続人のいない財産は国庫に移る。未婚、無子、一人暮らしの増加などが背景に挙げられる。このような中、終活、次世代への貢献への関心増加によって、遺贈寄付の関心が高まった。
遺贈寄付がキリスト教団体で広がっていない状況を、理事を務めるキリスト教NGOハンガーゼロのスタッフと話し合い、遺贈寄付の広報を始め、機関誌やZOOMセミナーなど実施してきた。今では、ハンガーゼロだけでなく、広く他団体や他団体の支持者からの相談も受けている。

本人の意向に沿うことが大事

遺贈寄付のためには遺言が必要。遺言には、本人が書く「自筆証書遺言」や公証人が作成する「公正証書遺言」などがある。「自筆遺言には、誤りや毀損・改変の恐れや『検認』手続きが必要。『公正証書遺言』をお勧めしている」。ハンガーゼロに遺贈寄付する場合には、戸籍謄本などの資料の取り寄せ、文案作成も行い、費用は無料で,公証人の手数料もハンガーゼロが負担している。そして「何より、本人の意向に沿うことが大事」と強調した。「遺産問題については、牧師から教会員に語りづらいので、教会で講師を招いてセミナーなどを開けるといいですね」と勧めた。

「注意を要する点として、不動産や株式などを団体に遺贈する場合には税金が発生する場合があるが、課税されるのは親族等の相続人になる点。そのために『親族に迷惑をかけてしまう』と本人は遺贈寄付をためらってしまう。これを避けるために遺言書に、受遺者となる団体が納税することができるよう明記するのがいいと思います」

また「遺言執行の手続きを信託会社に委ねることもあるが、信託会社は、預貯金等を現金に換えた換価金から手数料を受け取るのが普通です。なのでお金が残らず手数料がもらえない場合でも、信託会社が遺言執行してくれるかどうか確認する必要があるでしょう」と言う。

キリスト教団体全体で協力を

崔さんは「キリスト教団体全体の取り組みが必要だと思います」と訴える。
「まずは遺贈寄付について認識を広め、、、、、、

2024年08月18・25日号 11面掲載記事)