剣を鋤に、槍を鎌に 

  「戦争の放棄、戦力及び交戦権の否認」をうたう憲法9条をもつ現憲法は、世界でもまれな平和憲法と言われてきた。だが、最近は現憲法の「改憲」を巡る論議がかまびすしい。安倍首相はこの夏、「秋の臨時国会に憲法改正案を提出したい」と発言。「改憲」の国会発議も刻々と近づいてきているようだ。そんな状況に危機感を覚えつつも、著者はキリスト者の一人として憲法を考察する。

 1、2章では、聖書の御言葉と現憲法の条文を比較しながら、聖書が目指すものと日本国憲法が希求する世界が非常に響き合うものがあると指摘する。

 一方、3章ではキリスト者の視点から、自民党改憲草案の問題点を列挙する。例えば、現憲法が大切にしてきた基本的人権の尊重、立憲主義の否定、個人よりも国家を優先し個人を制限する姿勢、天皇制国家の価値観の強要、信教の自由・政教分離のなし崩し、「戦争放棄」から「安全保障」へ、「緊急事態条項」の問題、などを挙げる。

 特に、「安全の道を通って〈平和〉に至る道は存在しない」というボンヘッファーの言葉を引用した「平和」と「安全保障」に対する考察が興味深い。すなわち、安全を求めるということは相手に不信感をもっていること、平和は疑心暗鬼からは生まれない、平和作りとは自分のほうから相手に向けて心を開いていくことなのだ、と。そして、「剣を鋤(すき)に、その槍(やり)を鎌に打ち直す。国は国に向かって剣を上げず、もう戦うことを学ばない」(イザヤ2・4)という究極のビジョンの実現に向けて、悲観せずに、絶望せずに、希望を抱いて、ユーモアをもって、平和をつくる努力を一歩一歩続けていきたいと語る。

 本書は、18年4月17日に開催された、「私学九条の会・東京」結成12周年記念・第41回憲法学習会での講演に加筆修正したもので、語り口調がそのまま文章になっていて読みやすい。

 憲法や平和、政治との関わり方に対する考え方を深め、「平和作りのための小さな道具のひとつになれば」と著者は願う。(編集部

『剣を鋤に、槍を鎌に キリスト者として憲法を考える』朝岡勝著

いのちのことば社 1,972円税込  四六判

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