いのちあふれる家庭を求めて

本書の出発点は、現代社会に最も必要なのは心休まる居場所であり、安心して帰属できる家庭であるという信念と、切なる願いである。豊富な臨床経験から、家庭における幼少期の傷つきが生涯にわたり大きく影響することを改めて明言する。そのおかげで、読む人が、この本は自分を裁かないと思え、上からの物言いなどで失望するといった懸念も一掃してくれる。後に続く、発達段階や家庭の在り方についての解説や助言に素直に耳を傾け、自己に向き合える。専門家ならではの具体的で丁寧な描写、指摘で、良い学びでもある。

 著者はまず、優れて精神科医である。人の帰属欲求の実証を、子ザルの発達過程から始めている点はおもしろい。それは意思や意識の問題ではなく、より本能的な、生き物としての「いのち」だろう。 また、著者は常に親しい友である。悩める母、父、妻、夫、子たちと歩んできた痛みと愛をもって、自分も同じ弱さを持つ人間として語り、ある場合は共感し、あるいは優しくたしなめ、より良い関係を築くための道を示し促す。

 そして真実な信仰者である。神学を語ること、聖書のことばを引用し、だから妻よ、夫よ、こうありなさいと教示することはない。しかし、神の創造とキリストの贖いに基づく人間論、家庭観が貫かれている。そこに描かれる家庭、人の姿は、神がそう造り、ありのまま愛されて良いという信仰の事実である。さらに人の帰属意識は、神において完全に満たされる。家庭という土壌で育まれた私たちは、神のもとに至って無二の居場所を見出し、神の子という新しいアイデンティティーを得る。さらにこの究極の居場所が、見える家庭をより良いものにする糧になるとは、なんという人生の逆転だろうか。現代人が抱える「自分であること」の痛みから自由にされる。いつしか福音の本質に触れている驚きと喜びは大きい。

 ドイツ語出版から24年。あえて今、邦訳され、この書に出会えたことは、私には思いがけない贈り物であった。

評・石田節子=日本ホーリネス教団多摩キリスト教会牧師

『いのちあふれる家庭を求めて 安心できる場をつくる』
堀江通旦、ヒデカルト・堀江著、山形由美訳 いのちのことば 四六判 1,728円税込

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