[レビュー1]「助け」がなければ人は生きられない 奥田知志『いつか笑える日が来る 我、汝らを孤児とはせず』 評・木原活信=同志社大学教授
著者の奥田知志牧師は、日本バプテスト連盟東八幡キリスト教会牧師、またNPO法人抱樸で活躍され、ホームレス支援の実践が評価され賀川豊彦賞、糸賀一雄記念賞を受賞されるなど、今、福祉界で最も注目されている一人である。私自身、著者とはシンポジウムでご一緒した程度だが、なぜか知己のように思えてしまうのは、同世代、同郷ということだけでなく、同じ「信望愛」を抱いているからなのか。
この本は「あなたも私も『おんなじいのち』という普遍的価値を掲げて歩むなかで、ホームレスの人たちから教えられたこと」を、実践事例を通して平易に語っている。決して類書にあるような上から目線の道徳的「お説教」ではない。牧師や支援者というより「同じ人間として」葛藤しながらも愚直に歩まれた言葉が印象的であった。聖句が散りばめられていたが、それが新鮮で「生きた言葉」として迫ってきたが、そこに著者独特の援助哲学が編み出されていた。「助ける」「助けられる」を超えて相互性をもつことの重要性、つまり「助けられた人が助ける人になれる」(21頁)という「相互多重型支援」という発想。また福音書に出てくる「汚れた霊」とは「人を孤立させ、その結果、生きる意味を見失わせる力」(55頁)と理解。また日本の家の「軒」を、神学的に受肉と結びつける(163頁)発想には、ハッとされられた。とりわけ納得させられたのは、「人が人を救うことはできません。宗教者とは、神仏に赦され、助けていただかないと生きていけない自分であることを認めた人」(69頁)という言葉である。支援者が万能ではなく、むしろ「できない」という前提の重要性を強調されていた(76頁)。そして「助けて」と言えない自己責任社会への糾弾は現代の預言者を彷彿(ほうふつ)とさせる迫力もあった。
本書は、「赦された罪人」という人間観が鮮明で、それゆえか「支援臭」「宗教臭」を微塵も感じさせない、不思議な魅力ある、キリスト教社会福祉界にとって、待望の珠玉の一冊である。
(評・木原活信=同志社大学教授)
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