[レビュー3]『アウグスティヌスの母モニカ 平凡に生きた聖人』『母子の情愛—「 日本教」の極点』『近代家族の誕生女性の慈善事業の先駆、「二葉幼稚園」』
緊急事態宣言がどうなるかは分からないが、5月第2週(10日)の母の日を教会で記念するところは多いだろう。この日によく紹介される「涙の子は滅びない」で知られるモニカは、古代教父アウグスティヌスの母親だ。モニカは『告白』だけではなく、アウグスティヌスの様々な著作に登場する。
『アウグスティヌスの母モニカ 平凡に生きた聖人』(G・クラーク著、松﨑一平・佐藤真基子・松村康平共訳、教文館、3千740円税込、A5判)は、アウグスティヌスの著書と古代の女性を巡る様々な史料を駆使してモニカの生き様を蘇らせる。聖人とされたモニカがどのように受容されたかも考察。息子のために涙し、祈るというステレオタイプではなく、行動し、夫の暴力を乗り越え、息子の哲学・神学議論にも時に加わるという姿も明らかにされる。
日本で母を考える際に注意したいのは日本的心情。これを考察したのが『母子の情愛—「 日本教」の極点』(西谷幸介著、ヨベル、千100円税込、新書版)だ。作家山本七平が見抜いた「日本教」の延長に、母子の情愛、母性原理の優勢といった傾向を見る。「内部にあって外部に立てる」キリスト者の視点で、様々な日本人論、精神分析などを縦横に駆使し、日本人にありがちな行動のエピソードも交えて論じる。
現代の「家族」というあり方は自明ではない。『近代家族の誕生 女性の慈善事業の先駆、「二葉幼稚園」』(大石茜著、藤原書店、2千900円税込、四六判)は、明治時代に下層民のための慈善保育事業を始めたキリスト教を基盤とする「二葉幼稚園」に焦点。近代の慈善事業は、自発的なものでありつつ、国家政策の意向を汲むものだとする「動員モデル」論があるが、本書はそれを検証するもの。天皇・皇后の慈恵的な事業とキリスト教的慈善行為が共鳴したことを指摘。一方で幼稚園の担い手の女性たちの個々の思いに注目し、複雑な構造を見出す。雑居状態だった下層民が近代家族を形成することは、慈善団体の介入でもあったが、彼ら自身の生活を守る手段にもなり、そこから近代市民としての共同性が生まれた。現在の困窮する子育て世帯にどのように向き合うかも含め、多様化する家族の在り方を考える上でも参考になる。第10回河上肇賞受賞論文の書籍化。
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