東アジアで広がる文化空間 「本屋」の存在意義⑥

【書店】本を販売する小売店

【本屋】本を売る人たち

写真=突破書廊。香港で

 街で黒いマスクをしている若者を見かけると、ドキッとする。香港のことを思い出すからだ。昨年秋、記者は香港を訪ねた。反逃亡犯条例のデモが盛んな時期。大通りを黒シャツが埋め尽くし、一たび掛け声が上がれば、応答する声がなだれのように広がった。マスクと危機の蔓延(まんえん)、非日常と日常が入り乱れる光景は、今思えば、コロナ禍の世界を先取りしていた。

 この香港の旅は、本屋の旅だったとも言える。滞在期間中には香港キリスト教書展が開催。東京都の半分ほどの面積の香港だが、キリスト教書店は40以上ある。東京は数軒ほどであることを考えると圧倒的な差だ。この展示会には多様なイベントも並行。香港の歴史や教会と政治を考える本なども随所に特集されていた。各ブースは多くの若者でにぎわい、ぶ厚い本も次々と買われていた。店員と客が話し込み、会場全体に熱気があった。

『書店現場 香港個性書店訪談札記』周家盈著、格子盒作室、2018

 香港・九龍のメインストリート沿いに突破書廊がある。一般の書店雑誌や観光ガイドに載るほど注目されるキリスト教書店だ。店内は「都市の中で呼吸できる場」をコンセプトにしたゆったりとした雰囲気。カフェ、イベントのスペースもある。キリスト教に限らず心の安らぎや社会の様々な課題をテーマにした本を選書。工芸品、日用品も販売する。香港のセレクト書店を紹介する『書店現場 香港個性書店訪談札記』でも紹介され、店主は「単に本を買う場所だけではなく、文化を体験する場所としたい。様々な考えに触れることで、自分の位置を確かめることができる、、、、、、

2020年5月24日号掲載記事