[レビュー2]差別、分断の中で必要な実践的叡智 『地球社会共生のためのシャローム』評・岩上敬人
COVID-19というパンデミックによって、日本はもちろん、世界全体が大きく変容しつつあります。
グローバル化が加速的に進んでいた世界は、突然分断され、社会的距離が、人と人の距離、人と共同体、共同体と共同体の距離、さらに国と国の距離を生み出しています。グローバル化の大波の中に潜んでいた差別や分断が、COVID-19によって露呈しています。
それを象徴するかのように、アメリカでは白人警察官による黒人殺害のショッキングな事件が映像とともに流れ、Black Lives Matter(BLM)運動が世界で広がっています。キリスト者として私たちは、この世界のうめきを聖霊とともにうめき、すべてを支配しておられる主にシャロームを祈るばかりです。
このような混迷の世界のただ中で本書が出版されました。青山学院大学・地球共生学部の研究プロジェクトの研究業績の一つとして出版されたものです。出版側に新型コロナウイルスによる諸課題について念頭にないことは当然ですが、今、ウィズ・コロナの時代にキリスト者として置かれているからこそ、シャロームを中心とした「地球共生」の考え方は、希望の光を灯してくれています。
またシャロームに含まれる平和構築、安全保障、民族間の共生、共存、和解、フェア・トレード、環境保全、人権の尊重は、キリスト者がこの世界にあって、シャロームを実現する明確な指標を与えてくれています。
本書は青山学院大学の各専門分野の教員が地球共生にまつわり、キリスト教的シャロームを基軸に、理論、実証、実践の三つの側面からそれぞれ、論文を寄稿しています。各論文とも、叡智(えいち)に富んだ理論と実践を私たちに示してくれています。キリスト教大学の研究機関が机上の研究で終わるのではなく、この世界で生きるための大切な実践的叡智を私たちに提供してくれることに目が開かれる書籍です。
(評・岩上敬人=日本福音同盟総主事)
『地球社会共生のためのシャローム』
藤原淳賀、真鍋一史、高橋良輔編著、
ミネルヴァ書房
3,300円税込、A5判
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