『白人ナショナリズム アメリカを揺るがす「文化的反動」』(渡辺靖著、中央公論新社、880円税込、新書判)は近年展開する「白人ナショナリズム」の指導者や団体を取材。彼らは「白人がマイノリティーになる」という危機感を強めている。だが様々な格差の統計や歴史、そして今回の暴行死事件などを見る時に、差別の根深さがうかがえる。


「キリストは黒人だ」「白人教会はアンチキリスト」とまで言い切り、反発も受けたジェームズ・H・コーンの「黒人神学」は、精査は必要だが、それを生み出した状況は見直したい。コーンの自伝『誰にも言わないと言ったけれど 黒人神学と私』(榎本空訳、新教出版社、3千300円、四六判)は自身の生い立ち、様々な議論を読んだ各著作を執筆した背景などを物語る。「精神的な父」と見なすマルコムXの影響は大きいが、キング牧師をも「精神的な母」とする。「キリスト教、神学は白人のもの」と言う運動家にも対峙(たいじ)し、神学的な研さんを深めた。従来の神学的言語を問い直し、黒人ならではのジャズ、ブルース、ゴスペルから霊感を受けたそのスタイルは、日本の音楽関係者も注目する。


「黒人たちの目をこの世の問題からそむけさせてはいけない」という思いで、黒人専門書店を立ち上げた。『ハーレムの闘う本屋 ルイス・ミショーの生涯』(ヴォーンダ・ミショー・ネルソン著、R・グレゴリー・クリスティ絵、原田勝訳、あすなろ書房、千980円税込、B5判)からは大恐慌から冷戦までの時代背景が分かる。

 
米国から太平洋を挟んだ向こう側でも深刻なデモが続く。『香港デモ戦記』(小川善照著、集英社、946円税込、新書判)は香港デモの最前線をルポ。暴力もいとわない「勇武派」の若者たちの素顔にも迫った。本土派、独立派の共闘とせめぎ合い、多様な抵抗の姿も描写する。さらに香港の歴史的、構造的な問題を深めるには、「香港史研究会」が主導した『香港危機の深層 「逃亡犯条例」改正問題と「一国二制度」のゆくえ』(倉田徹・倉田明子編、東京外国語大学出版会、千760円税込、A5判)が詳しい。
興味深いのは、日本への親近性だ。白人ナショナリストは「単一民族文化」にあこがれ、勇武派はアニメ、ゲーム、アイドルに熱中している。各書で書かれていることは日本の鏡像として、米中に挟まれた日本の在り方も考えたい。

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