私はキリスト教小学校で 36年間、教師をした後、神学部で牧師になるために学んでいる遅咲きのアジサイである(6月生まれなので)。止揚学園の園長、つまりこの本の著者福井生さんに初めて会ったのは、彼が神学部の学生(というより前衛劇団員)だった 30 年ほど昔。小学校恒例の学習発表会という行事に講評をお願いした時だった。
卒業生であり、演劇の専門家として、どんな講評をしてくれるのか、子どもたちとドキドキしながら彼の言葉を待っていたあの時を昨日のことのように思い出す。生さんは、専門的アドバイスをするのでも、先輩として後輩に励ましの言葉を与えるのでもなく、一言「まいりました‼君たちはすごい‼」と熱演した子どもたちをほめた。私はそのコメントに感動した。そして、30 年後、この著書を読む機会に恵まれている。止揚学園の仲間たちとの日々の出来事と生さんの、哲学者のような思索の深さと詩人のような言葉の力に深い感動を覚える。
二部では、神学者・小原克博先生との「《対談》『止揚なき時代』の『止揚学園』」が収録されている。私は今、神学部小原ゼミでご指導を受けている。大学での小原先生は当意即妙、あらゆるテーマに対して神学にとどまらぬ、学際的な知見で人々に影響を与え、キリスト教からの展望を発信している行動する神学者である。
このお二人は大学時代、同じクラスの同級生でもあった。対談の深みと面白さの秘訣(ひけつ)はそこにもあるのではないか。
6月に母を亡くし、その直後から、一人暮らしの弟の重篤な帯状疱疹の看病に、疲れた私を支え導いてくれる本書との出会いを心から感謝したい。ここには、今の社会に最も必要な、ぬくもりと愛(いと)おしさと慰めと知恵と懐かしさと繋(つな)がりがあふれている。すべてにおいて先行する神様の恵みを実感することができる大切な一書である。
(評・鳥井新平=同志社大学神学部大学院生)

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