目的を明確にし共感へ 福島県キリスト教連絡会前代表・木田惠嗣さん 特集 東日本大震災から10年

写真=2012年、ふくしまHOPEプロジェクト設立式の様子

福島県キリスト教連絡会(FCC)創立時の代表、木田惠嗣さん(ミッション東北・郡山キリスト福音教会牧師)は「震災後、あまり自分が被災者だという意識はなかった」と言う。「家の中はぐちゃぐちゃになったが、倒壊してはいない。沿岸のように津波被害はなく、被曝した実感もない。実際は被曝していたわけですが…」

2011年5月に福島市内の牧師たちの祈り会から始まった「ふくしま教会復興ネットワーク(FCN)」設立当初、すでに活動が進んでいたいわて教会ネットなどのように、内陸から沿岸に支援チームを派遣できればと考えていたという。「現実には、放射能の問題があり、それぞれの教会で手いっぱいという状況でした。最初、クラッシュジャパンの方々に助けていただき、避難所を訪問をして、ハンドマッサージをしたり、物資を配布しました」

当初、相馬市や南相馬市は、孤立し支援が届かなかった。南には原発があり、いわき方面から北上はできない。北の仙台方面からもなかなか入れなかった。内陸から何度か支援を手配したが、線量の高い地域を通るため、ボランティアの負担が大きく、継続は困難だった。

①除染、②仮設支援、③週末疎開、④野菜と、四つのプロジェクトを掲げ、それぞれの教会で自分たちができること、興味を持ったところを担当してスタートした。「最初の挫折は除染プロジェクト」と言う。「実際は大変な作業、土木の技術も必要。素人ができることではありませんでした」
すでに形成されていたいわきCERSネット(いわきキリスト教会連合震災復興支援ネットワーク)など県内の各地のネットワーク代表者たちが集まり、11月にFCCが立ち上がった。福島県放送伝道を支える会のつながりの中で、福島県全体をつなぐネットワークの地盤はあった。ただ「『オール福島で』とスタートしたが、実際教会間で被災の実情も違い、意見の相違も多く大変だった」と振り返る。「教団教派の壁が崩れ、教会間の協力が進んだが、現在はまた元のさやに収まりつつある」という実感もある。

福島県ならではの課題がある。「高齢化が進む過疎の町が多かったが、人口の減少に歯止めはかかっていないし、その傾向は未だに解決されていない」。県外避難者数は2万8千959人(福島県統計2021年1月13日現在)、県内避難者数は7千220人。多くの人が帰ってきたり、避難した土地に住み着いたりしたが、2011年時の人口203万人から現在182万人に減少した。
原発、放射能問題の傷跡は深い。

「原発推進派、原発反対派の二つの意見が真っ向から対立しており、建設的な議論や、健全な原発政策が行われているとは言い難い。放射線量は10年前に比べて随分低減された。現在は放射能を気にする人よりも、新型コロナウイルス感染症を気にする人のほうが圧倒的に多い印象です」

滞っている福島第一原発の廃炉作業やたまり続ける汚染水、廃棄物の行先など課題も多い。2月の福島沖地震はそれらの危うさを再認識させられる出来事だった。「政府は原発の再稼働を推進する方向。その妨げになる情報は公開されづらいと考えておいた方がいい」と気が抜けない。「まだ原発事故の原因が解明されていない(1月26日原子力規制委員会中間報告案など参照)。問題がきちんと解決しないまま原発行政が進むのは疑問です」

(この後、目的を明確にしたネットワークの維持を語ります。2021年3月7日号掲載記事