株式会社チュチュアンナ監査役 上田ヒサ子 さん

安倍晋三元首相の襲撃事件を機に、統一協会(現・世界平和統一家庭連合)の実体が明るみに出始めた。家庭崩壊と人格破壊を招くカルトの恐ろしさを体験した人々を、マスメディアも取り上げるようになった。株式会社チュチュアンナ(大阪市・上田崇敦代表取締役社長)監査役の上田ヒサ子さんと夫の利昭さん(代表取締役会長)一家は、ヒサ子さんと3人の子どもが統一協会に取り込まれるという試練を乗り越えてクリスチャンホームとなった稀有(けう)な家族だ。上田夫妻はこの体験を通して、様々な場所でカルトの実体とそれに打ち勝つキリストの愛を伝え続けている。【藤原とみこ】

上田ヒサ子さん。夫の利昭さんと

弱みにつけ込み するりと心に入ってくるカルト

「息子さんは9歳で命を絶たれますね」
41年前、印鑑の訪問販売にやってきた女性からさらりと言われた一言に、上田ヒサ子さんは震え上がった。これが、14年間にも及ぶ統一協会との関わりの始まりだった。
1980年代は統一協会が学生層から主婦層に標的を変えた時期だ。女性たちの孤独や不安にするりと入り込み、弱みにつけ込んで引き込むことに成功していた。上田さんは印鑑で難を逃れられると言われ迷わず購入した。品のいい清潔感あふれる女性で、とても人をだますようには見えなかった。
本格的に統一協会に飛び込んだのはその2年後だ。利昭さんがチュチュアンナを創業して間もない頃。なかなか業績は上がらず、子育てを任せきりで仕事に没頭する利昭さんや親族との不和を抱え、身も心もすり減らす日々を送っていた。
「業績が上がらないのは会社の実印が災いしているのではないか」
すがるような思いで、かつての女性に連絡して、120万円で印鑑を3本作った。これを機に、一気に統一協会にのめり込んでいく。
「統一原理を学びにビデオセンターに通いました。3か月あればきっちりマインドコントロールされます」
教えの中では、イエス・キリストは十字架で死んで失敗した存在。文鮮明はメシアで、彼を通さないと天国に行けないと教えられた。
「自ら考えるということは悪。統一協会のためならうそもよしとされ、反対する者をサタンと呼びました。この世のお金はサタンの金だから神に返しなさいと言われて、家を売ったり借金したりする人が大勢いました。まさに宗教の顔をした金集め集団でした」
入信してからの日々は変な幸福感に包まれていた。統一協会の人々は親切でまじめで、居心地が良かった。

 マインドコントロールを解くために3か月隔離生活

ヒサ子さんの入信を利昭さんが知ったのは、高額の多宝塔を買ったことからだった。これは幸い返却返金できた。猛烈に反対されても、ヒサ子さんは隠れて活動を続けた。夫婦関係も親子関係も冷え切っていた中で子どもたちも取り込まれて10年過ぎた頃、芸能人の入信騒ぎが起こった。危機感を募らせた利昭さんは、異端救済活動をしている京都聖徒教会の船田武雄牧師に助けを求めた。マインドコントロールは自力では解けない、3か月隔離して話し合いをもたなければと聞いて、母子別々に部屋を借り、1人の救出に見守りは3人必要というので親兄弟親戚が動員され説得が始まった。
ヒサ子さんにとってはサタンに閉じ込められたも同然だった。
「統一協会からはどんな状態になっても信仰を守り通せと言われていました。信仰を失うと子孫も先祖もみんな地獄に行く、と」
〝サタンの頭〟である牧師の話など聞く耳もたず、すきをうかがってベランダから逃げ出した。その後3年半、一人でパート仕事で生計を立てながら暮らすことになる。貧しい生活の中から、なんとか献金をし続けた。常に言われていたのは「神の国の実現のために献金せよ」。献金は至上命令だった。

 ばらばらだった家族がキリストのもとで一つに

長女の智子さんは当時大学生。隔離の中で聖書の話を聞くうち、ある日「お城が一挙に崩れるように」マインドコントロールが解かれる体験をした。「そこから徐々に思考が動き出しました」
その後すぐに受洗、弟妹も救出されて、脱会者に必要なリハビリ期間が過ぎると、利昭さんも妹も洗礼を受けた。みんなでヒサ子さんのために懸命に祈り始めた。
ヒサ子さんが孤独に耐えかねて突然帰ってきたのは96年のクリスマス。再び家族が見守る中で隔離が始まった。当初は抵抗していたが、統一協会の内部殺傷事件を契機にはっきりと間違いに気づいた。統一協会の実体が書かれた本を読み、文鮮明の正体を知った。映画「ジーザス」を通して、本当のメシアはキリストだとわかった。半年の戦いの末に解放されたヒサ子さんは、長男の崇敦さんと共に洗礼を受け、一家はクリスチャンホームになった。
ヒサ子さんは、妻子を助けるためなら「会社がつぶれてもいい」とまで考えた利昭さんの愛がなければ救出は不可能だったと振り返る。ばらばらだった家族が、大きな試練を通してキリストの元で一つになることができた。
智子さんは「キリスト教の知識があれば、簡単に取り込まれない」と、幼い時からのキリスト教教育の大切さを感じている。ヒサ子さんは、苦しい時についすがってしまった体験から「人に寄り添う」優しさを、クリスチャンこそ持っていたいと思う。「ただ傍にいて聞いてあげて、共に涙する。まずは、それだけでいいんです」
みせかけの優しさの餌食になる前に、キリストの愛に触れることができればと、心の底から願っている。

クリスチャン新聞web版掲載記事)