【レビュー】『ジョージ・ミュラーとキリスト教社会福祉の源泉―「天助」の思想と 日本への影響』
「はからずも」で紡がれた物語
『ジョージ・ミュラーとキリスト教社会福祉の源泉 「天助」の思想と日本への影響』木原活信著、教文館、5,060円税込、A5判
ショージ・ミュラーといえば、祈りによって一万人の孤児を養った信仰あつきキリスト者であり、だれもが知る偉人伝中の人物である。しかし、本書では、失敗も弱さも脆(あやう)さもある、ごく普通の人間ミュラーの姿が描かれている。
ミュラーの実像を浮き彫りにする中で、彼の中でキリスト教信仰と実践がどう結び付き展開していったのか、丁寧に分析考察されている。ミュラーは著者長年のテーマだそうだが、そのごとく相当手のかかった研究書である。さらに、山室軍平や石井十次ら、日本においてミュラーの影響を受けて活躍した巨人たちの生涯を丹念に追った記述も興味深い。その意味で本書は、神の前に真実に歩もうとした信仰者たちの、いわば求道の物語でもある。
普通の人であるミュラーの生涯を、著者は「はからずも」という言葉でつなぎながら語る。人や出来事との出会い、試練や苦難、その時代に生まれ合わせたことも含め、すべては「はからずも」である。「はからずも」の中に、神の見えざる手を見ると著者は言う。
社会構造が劇的に変化し、様々な矛盾や問題が噴出した時代にミュラーは生きた。コレラパンデミックに苦しみ、悲惨な戦争に怯(おび)えた。私たちが生きる今の時代とも重なる。
ミュラーは、既成の組織を疑い、安定した職を捨ててまでも、真実な生き方を求めた。彼は、情緒的であるよりも、「神の栄光を孤児事業において現わす」ことに重きを置いた、と著者は考察する。借金はしない、募金広告もしない。これらを俗的なものとして、ミュラーはかたくななまでに遠ざけた。その仕方がそのまま現代にあてはまるかどうかはさておき、かくまで純粋に神にのみ頼ることを貫いた姿には襟を正される。著者はこれを「天助」の思想と解説する。
神とともに紡がれた物語は、今を生きる私たちに問いかける。教会は社会の困難にどう向きあっているか。信仰者として私たちはどう生きるのか。キリスト者として福祉をするとはいったい何なのか。
(評・坂岡隆司=社会福祉法人ミッションからしだね理事長)
(2023年04月30日号 08面掲載記事)
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