「江戸切支丹殉教地プレヤーツアー」 大殉教から400年
大殉教から400年 痕跡たどり祈った一日 「江戸切支丹殉教地プレヤーツアー」前編
1623年(元和9年)に起こった「江戸の大殉教」では、イエズス会の宣教師デ・アンゼリス、フランシスコ会の宣教師ガルベス、切支丹のジョアン原主水(はら・もんど)はじめ50人が火刑に処せられた。それから400年となる今年、その痕跡をたどる「江戸切支丹殉教地プレヤーツアー」が5月3日、日本同盟基督教団東京宣教区連合壮年会の主催で行われた。参加した記者によるレポートを、二回にわたって掲載する。なお記事中の地名は現代のものに統一した。【間島献一】
ツアー幹事の青木幹夫氏は今回のために、A4用紙40ページにもわたる冊子を用意した。内山善一著『切支丹風土記 東日本編』(宝文館、1960年)を参照し、現在の地名で収録しつつ、事前の実地踏査により制作された見どころガイドも掲載。このツアーだけで使い終わってはもったいない内容と量の情報が収録された。青木氏は他にも、高木一雄著『江戸キリシタンの殉教』(聖母の騎士社、1989年)と、谷真介著『江戸のキリシタン屋敷』(女子パウロ会、1984年)も参考資料として推薦している。
東京メトロと都営地下鉄の共通一日乗車券を使い、台東区、中央区、荒川区、千代田区、文京区、港区を巡った。歩行距離は約10キロメートルにも及び、ある参加者の歩数計は2万5千歩を記録していた。
茗荷谷(文京区)や三田(港区)では、最大で標高差20メートル(建物7階分に相当)もの坂を登り降りした。さらに、下町の古い地下鉄駅では、ルート上にエスカレーターがなく階段の昇降もあった。さながら心身を鍛える巡礼のようだったが、記者よりも壮年の方が健脚ですらあった。
朝9時集合、夕方17時半解散の大掛かりな旅程だったが、当日は気温も暖かく、程よい風もあり、ウォーキング日和であった。
台東区・浅草橋駅に集合、祈ってから出発した。参加者は9つの教会から21人。牧師や夫婦での参加も。思い思いに感想を述べあう交わりの日となった。
ハンセン病静養地すら打ち首の刑場と化した
台東区浅草橋には、フランシスコ会の神父ルイス・ソテロによって1613年(慶長18年)に設けられた、ハンセン病患者の修養施設と礼拝所があった。浅草寺などが位置する浅草中心部から2キロメートルほど離れたこの地は、鳥越川という小川が流れるような郊外であったため、当時疎まれる病だった者を集めることができた。
ところが同年の夏に施設は打ち壊され、鳥越川に架かる甚内橋付近では、28人の切支丹が打ち首の刑に処せられた。弱い者を隣人とした愛の実践の地で、弱い者への虐げの極みが行われたのだ。ソテロは支倉常長に連れられ遣欧使節の一員となった後、長崎で殉教した。
カトリック浅草教会に設置されている「浅草・鳥越きりしたん殉教記念碑」。殉教者28人の名前が刻まれている。敷地内だが道路に直接面し、よく目立つ。浅草教会では、有志の語り部らが伝承を続けている。
甚内橋の跡地の石碑を囲む参加者たち。切支丹の血で染まったであろう鳥越川は現在、道路下の暗渠(あんきょ)となっている。整った区画の中でこの道だけ蛇行していることが、残された数少ない面影の一つ。
江戸の収監施設の惨状 現代の社会問題に見え
中央区小伝馬町には、江戸幕府により「伝馬町牢屋敷」が設置されていた。収監されたのは切支丹に限らず、吉田松陰が処刑され、平賀源内が獄死したのもここであった。
牢獄は外壁すら木の格子でできており、全方向から視線と風雨が攻める。一方、厚い壁で閉ざされた建物は「拷問蔵」だ。日本刀の試し斬りを収容者で行う「生き試し」による処刑も行われていたという。収容者たちは、劣悪な衛生環境の牢で病に倒れても、診断も治療も満足に受けられず、苦しみながら死んだ。
伝馬町牢屋敷の跡地は中央区の公共施設「十思(じっし)スクエア」として整備され、保育園や銭湯などとともに資料展示がある。写真中央は牢屋敷のジオラマ。出土した石垣や井戸も屋外に保存されている。
牢屋敷の「首斬場」があった場所は「大安楽寺」境内となっている。江戸通りと人形町通りが交わる慌ただしい町の片隅に、凄惨な歴史がひっそりと眠る。
収容者が虐待され命を奪われる状況は、もしかしたら、400年後の同じ島国の入管施設でも、同様のことが起きてしまったのではないかと、考えずにはいられなかった。当時の牢屋敷跡に立ち、格子の中の切支丹に思いを重ねる時、私たち現代のクリスチャンは、〝格子〟のどちら側に立っているのだろうか。
次回の記事では、「小塚原刑場」、「切支丹灯篭」、遠藤周作著「沈黙」の舞台でありシドッチ宣教師の遺骨が発掘された「切支丹屋敷」などを巡り、大殉教の現場を目指す。
(2023年05月28日号 08面掲載記事)
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