1623年(元和9年)に起こった「江戸の大殉教」から400年となる今年、その痕跡をたどる「江戸切支丹殉教地プレヤーツアー」が、5月3日、日本同盟基督教団東京宣教区連合壮年会の主催で行われた。参加した記者によるレポートの後編を掲載する。(前編は5月28日号に掲載)【間島献一】


骨は地蔵の足元に 魂は主のみもとに

荒川区南千住の「延命寺」と「回向院(えこういん)」は、時代劇などでも登場する「小塚原刑場」の跡地だ。ここで処刑された者は罪人も切支丹も、一つの墓石のもとに供養が行われている。

刑死者には「腑分け(解剖)」が行われ、立ち合った杉田玄白らは『解体新書』を完成させた。その記念碑も回向院に設置されている。刑死者の尊厳は当時二の次だったことをうかがわせる。


「首切地蔵」が鎮座する延命寺の墓所。JR常磐線と地下鉄日比谷線の高架、隅田川貨物駅へ向かう線路に囲まれた、この狭い空間に立つと、周囲の町から切り取られたような不思議な感覚があった。

一行は、千代田区の御茶ノ水にある日本ハリストス正教会「東京復活大聖堂(ニコライ堂)」の前を通過し、茗荷谷へ足を向けた。


信仰に生きた証し かすかに、確かに

文京区小日向の深光寺には「切支丹燈篭」が残る。一見ただの庭の装飾品だが、十字の紋を刻んだり、十字架の横木のようなふくらみを付けたりなど、切支丹の間にだけ通じる方法で信仰が表し伝えられている。


深光寺の境内に残る「切支丹燈篭」。同寺は縦横に入り組んだ茗荷谷の中央にあり、訪問には坂歩きが必須だが、境内には滝沢馬琴の墓(文京区指定史跡)もあり来訪者は多い。

同町内にあった「切支丹屋敷」は、伝馬町牢屋敷とは違い、軟禁施設だった。大殉教よりも後年、切支丹への扱いは処刑から隔離に転じたのだ。遠藤周作著『沈黙』の舞台もここである。

2014年のマンション建設の際に遺骨が発掘され、国立科学博物館による調査の結果、そのうち一体は、イタリアからの伴天連ジョバンニ・バチスタ・シドッチのものと判明した。この経緯は篠田謙一著『江戸の骨は語る―甦った宣教師シドッチのDNA』(岩波書店、2018年)に詳しい。


切支丹屋敷跡は東京都指定旧跡だが民有地となっており、道端に石碑と解説があるのみ。正面の建物には掲示板があり、関連する写真や新聞記事の切り抜きで補足の説明がされていた。

一行は茗荷坂、蛙坂、切支丹坂、藤坂を踏破し、いよいよ大殉教の地へ歩みを進めた。


見せしめの火刑を前に かえって信仰燃やされ

港区三田の、50人の火刑が行われた殉教地は、小高い丘の上にある。当時は海岸沿いだった東海道上の、高札場「札の辻」(港区芝)と、江戸の門番「高輪大木戸」(港区高輪)との間に位置する。この見晴らしの良い場所が選ばれたのは、見せしめのためだろう。その煙は江戸の市中からも望めたという。

火刑は47人の切支丹が先に行われた。デ・アンゼリス、ガルベス、原主水の3人は、それを見せつけられた後に火刑にされた。幕府はこのような残酷な手法で切支丹に恐怖を与え抑圧しようとしたが、何千人もの見物人の中から「自分も切支丹だから共に処刑してくれ」と願い出る者がいた、とも伝えられる。


大殉教の地は、東京都指定旧跡「元和キリシタン遺跡」となっている。智福寺の境内だが、隣接するビルに付属する広場から連続して、公園のように整備されている。写真奥を東海道(現・国道15号“第一京浜”)が左右に走り、左へ行くと札の辻、右へ行くと高輪大木戸。江戸の外れの海岸は、今ではビルの森。


主の憐れみで信仰保つ

ここで参加者の小岩井信氏(同盟基督・子母口キリスト教会牧師)がショートメッセージを語った。「江戸の切支丹たちは、神を愛し畏れた。人を愛し、しかし恐れなかった。あらゆる困難と試みを耐え忍んだ。私たちプロテスタントは、彼らを聖人として扱うことはしないが、彼らに恵みを与えた神をあがめる。私たちも主の憐れみで信仰を保っていきたい」

「転ばずに殉教した彼らの信仰はすばらしいが、殉教という出来事はすばらしくない。筆舌に尽くしがたい暴力を振るい切支丹を迫害した、権力者の存在にも目をとめたい。今なお、為政者の迫害の下心は途絶えていないのではないか。私たちは、次なる殉教が起こる前に、為政者を止めなければならない」



港区高輪にあるカトリック高輪教会では、道路に面した壁の上から「江戸の殉教者顕彰碑」が見下ろす。教会の地下には納骨堂とともに資料室が設けられ、切支丹の遺品や、切支丹禁令や密告への報奨金が記された高札の実物などが展示されている。壁いっぱいに掛かった『江戸大殉教図』(画・江副隆愛)の前で祈り、厳かな雰囲気の中でツアーは終了した。

ある参加者は、「率直に言うとつらい思いだ。もし自分なら信仰を表明する態度を示せるか自信はないが、ふさわしく在れるよう祈りたい」と話した。

企画者の青木幹夫氏は、「同様のツアーを再び計画中。大殉教当日の12月4日には、小伝馬町の牢屋敷跡から三田の殉教地まで20キロを歩くツアーも行う」と述べ、関心を呼びかけた。(終)



2023年06月11日号 04面掲載記事)

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