【大宣教命令の現状報告を読む1】篠原基章 東京基督教大学学長
9月22日から、ローザンヌ運動の第四回世界宣教会議が韓国で開催される。すでにこれに向けたデータブックとしての「大宣教命令の現状報告」(以下「報告」)がウェブで公開された(URL: https://lausanne.org/report )。世界のキリスト教動態、世界の新しい潮流を10の問いを切り口で紹介し、統計データや論考が提示する。
日本でも昨年、第七回日本伝道会議の開催に合わせ、二つのデータブック『データブック2023』、『宣教ガイド2023』が発行された。それぞれの担当者に「報告」を読んでもらい、日本と世界の宣教をつなげて考察する。
『大宣教命令の現状報告』(Lausanne State of the Great Commission Report)は、2024年9月に韓国(ソウル=インチョン)で開催される第四回ローザンヌ世界宣教会議に向けて準備された宣教の詳細な現状分析である。この報告書の責任者であるマシュー・ニアーマン(Matthew Niermann)は、その目的を「大宣教命令を果たすための最大のギャップが何であり、また宣教の機会がどこにあるのかを理解するため」であると述べている。このレポートは三部構成となっており、現時点では現在の世界宣教の現状をまとめた第一部、大きく変化しつつある文脈に関する第二部が公開されている(URL: https://lausanne.org/report )。第三部は一部分が公開されているが(執筆時点)、それぞれの地域において考慮すべき事項が報告される。
このレポートは「大宣教命令」(The Great Commission)の神学的考察からはじめられている。ある人々にとって、このことは至極当然のこととして受け取られるだろう。大宣教命令とは、マタイ28章に記されている主イエス・キリストの「行って、あらゆる国の人々を弟子としなさい。父、子、聖霊の名において彼らにバプテスマを授け、わたしがあなたがたに命じておいた、すべてのことを守るように教えなさい」という宣教命令のことである。19世紀におけるプロテスタントの世界宣教は、近代海外宣教の父と呼ばれたウィリアム・ケアリーやハドソン・テーラーによって牽引されたが、その神学的土台となったのがこの大宣教命令であった。
大宣教命令は「任意」?
しかし、今回の調査によると、大宣教命令に対する共通のコミットメントは「過去」のものとなりつつある。この報告書によれば、世界のクリスチャン指導者千500人に、それぞれの地域における大宣教命令へのコミットメントの度合いを調査した所、その度合いは決して高いものではなかった。アフリカ、アジア、ラテンアメリカの指導者たちは、クリスチャンの30~40%が大宣教命令を「任意」(optional)と見なしていると回答している。
この数字は北米、ヨーロッパやオーストラリアではさらに高く、およそ50%のクリスチャンが大宣教命令を任意であると認識している。さらに、大宣教命令が何であるかを説明できるクリスチャンは半数以下であり、福音を伝える準備ができているクリスチャンも同様に半数以下と回答している。
この報告書の目的は「大宣教命令を果たすための最大のギャップ」を明確化することにあるが、大宣教命令そのものへの意識の低下がまさにギャップの一つとなっているのである。教会は常にその宣教のわざをくじこうとする霊的な戦いのただ中に置かれていることを覚える必要がある。
入り込んだ個人主義
宣教に対する意識の低下には様々な要因が考えられる。セキュラリズムや宗教多元主義の潮流はその大きな要因であろう。しかし、より深刻な問題は現代に見られる典型的な個人主義的傾向の現れではないだろうか。リージェント・カレッジで教鞭を取ったチャールズ・リングマは、この世代のキリスト者の意識の内に入り込んでいる個人主義的傾向を鋭く指摘している。リングマは、現代のキリスト者も「ミー・ジェネレーション」(自分さえよければよい世代)、あるいは「ゴッド・ブレス・ミー・スタイル」(自分が祝福されることだけを求める生き方)の申し子であると指摘している(チャールズ・リングマ『風をとらえ、沖へ出よ~教会変革のプロセス~』、あめんどう、2017年、14頁)。
宣教の情熱は他者への関心と深い憐れみの心から生まれるものである。私たちキリスト者がもし自分自身の幸福を最大の関心事とするのであれば、それは宣教の主である神の御思いを裏切ることになる。宣教は失われた人類と被造物に対する神の愛の活動だからである。
東海宣言で〝再献身〟
日本のキリスト教会の教勢の推移を見ると、1990年過ぎまでは増加傾向にあったが、その後20年は鈍化し、2010年代に入ると横ばいから減少傾向に転じている。日本の教会は、統計だけを見るのであれば、「成長期」を通り過ぎ、「停滞期」から「衰退期」に入ったと言える(『データブック2023~神の国の広がりと深化のために~』東京基督教大学国際宣教センター日本宣教リサーチ、2023年、36頁)。どの教団においても牧師の高齢化が顕著であり、2015年の調査データによれば教職者の平均年齢は67.8歳であり、35歳以下の教職者の割合は全体の3.5%である(『データブック2023』、108頁)。牧師・伝道者を志す献身者は減少しており、兼牧や無牧の教会が増加している。また、少子高齢化に伴い、教会から子どもと若者が消えつつある。
2023年9月に岐阜で開催された第七回日本伝道会議において共有されたのは、まさにこのような教会の現状と宣教の状況に対する危機感であった。この伝道会議は「東海宣言:『おわり』から『はじめる』私たちの祈り」を共に祈ることで閉じられたが、この祈りは宣教への再献身の祈りであったと受けとめている。
宣教のために祈り、行動するためには現状を知る必要がある。『大宣教命令の現状報告』はそのための大きな助けとなる。上述した第七回日本伝道会議の際に出版された『宣教ガイド2023~「おわり」から「はじめる」宣教協力~』(いのちのことば社、2023年)と『データブック2023』と併せて読むことを強くお勧めしたい。
記・篠原基章(東京基督教大学学長)
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