映画「近江ミッション 願いと 祈りと 喜びと」溝渕監督に聞く
自宅で過ごす喜びを、患者、家族、医療従事者が共有
美しい自然と人々の営みを背景に、ホスピス医と患者・家族の心の交流を描く映画「近江ミッション 願いと 祈りと 喜びと」(溝渕雅幸監督)が2025年1月10日から1月10日からTOHOシネマズ日本橋(東京)ほか全国で順次上映される。滋賀県近江八幡市にあるヴォーリズ記念病院のホスピスが舞台だ。
近江ミッションとは、同病院を設立した宣教師のウィリアム・メレル・ヴォーリズが進めた宣教活動。「近江に神の国を実現する」という理想に立ち、多様な社会事業を展開した統合的な働きだった。同病院は06年からホスピスを始め、地域に密着した総合的なケアに取り組み、21年に新築移転した。
溝渕監督にとって、同病院での映画撮影は2度目となるが、今回はコロナ禍の影響を受け、様相が変わった。「当初は最新設備のホスピスがどのようなっているのかに関心があったが、撮影に入った22年は、まだ面会が制限され、ボランティアも入れない。絶望的な状況だった」と言う。
だが、その中で見出したのは、「命の限りがある中、 患者の願いは、治ることよりも、家族や孫に会うこと。そのような『願い』、『祈り』は、変わらない。医療従事者も同じ気持ちだ」ということ。「主に5人の患者が登場するが、主役はいない。群像劇でもない。この映画の〝主役〟はサブタイトルにあるように『願い』『祈り』、そしてそれがかなえられた『喜び』です」
もともとは関西方面の新聞記者として、事件・事故・災害を追っていた。1995年の阪神淡路大震災時には、すでに映像の仕事に転職していたが、テレビ局の応援取材や震災記録映像の撮影で多くの人の『死』に向き合った。しかし、あるとき、そのような災害とも違う「普通の死」があることにも気づいた。「そのような『普通の死』が、あまり伝わっていないのではないか。これが現在のテーマにつながっている」と話す。自身、カトリック教会で信仰を持ち、祈りや死について関心を持ち続けてきた。
一日一日を大切に過ごすホスピス医の細井さんと患者
その後、テレビ番組制作を通じて、ヴォーリズ記念病院ホスピス医の細井順さんと出会う。これをきっかけに初の映画作品「いのちがいちばん輝く日 あるホスピス病棟の40日」(2013年)を制作した。「当時メディアではまだホスピス病棟を撮影するのは難しかった。テレビ放送では結局使わなかったが、患者のお別れ会にも立ち会った。撮影許可を求めると、遺族は『きれいな顔なので(故人を)撮ってください』と話してくれた。普通だったら、撮影などとんでもないと思うだろう。遺族がこのように言えるのはなぜだろうか。ホスピス病棟そのものに、その理由があるのではないか、解明したいと思いました」
この初の映画作品の上映会に訪れた、医師・日野原重明さんの言葉が、その後の作品制作の指針となった。「日野原さんは映画を見て『“幸福の本態”が描かれている』と語った。初めは『“幸福の本態”を描いたつもりはなった』と思ったが、お話をするうちに、『“幸福の本態”を見つめ続けなさい』という意味だと思えた。『近江ミッション』で言えば、『願い』や『祈り』です」
今回の「近江ミッション」では、コロナ禍後に進んだ、在宅ケアの様子も映す。坂本さん?は、孫の面倒を見るのが生きがい。最期の数週間を家で過ごし、小学生の孫がベッドに寄り添った。ひろせさん?は、認知症で余命1か月と宣告されていたが、自宅で療養し、劇的に回復し、5か月を過ごした。「娘さんが、『大変だったが、すごく幸せだった』と語ったのが印象的だった。ひろせさん?ご本人、訪問看護師、医師、みなの喜びも伝わってきた」と溝渕さんは言う。
自宅のベッドで患者に寄り添う
溝渕さんは、今回の映画に込めた思いをこう語る。「災害や事故、病気など様々な原因は違うが、人は必ず死ぬ、ということは変わらない。しかし死への知識と準備が少しでもあれば変わってくる。誕生日や新年のタイミング、クリスチャンであれば、アドベントやイースターに自分の死について考えてみてはどうか。死を自分のこととして考えていければ、他者の死にも寄り添える。一日一日を粗末に生きられない。ホスピスという場は、特にそのことが濃密であり、その分、一つ一つのことへの喜びが大きい。『看取り』とは、その瞬間のことだけではなく、死にゆく期間を共有することなのでしょう」
さらにこう付け加えた。「しかし、これは映画として制作したので、〝勉強〟としてではなく、楽しんで見てほしい。四季折々の近江の美しい景色や、何百年も続く祭りの様子も描写する。そのような風景の中で、一人ひとりの命と日常があることを感じてもらえれば」
近江の四季折々の風景が描写される
【映画情報】
『近江ミッション 願いと 祈りと 喜びと』
監督:溝渕雅幸 2024年/日本/カラー/4KDCP/100分語り:杉浦圭子 音楽監督:ザビエル大村 後援:公益財団法人日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団 制作:R’s STAFF 製作配給:アスツナグエイゾウ URL:https://www.inochi-hospice.com/mission/
【上映情報】
TOHOシネマズ2025年1月10日(金)~
〈舞台挨拶〉1月11日(土)登壇者:佐々木慈瞳(僧侶、公認心理士)、倉持雅代(訪問看護師・緩和ケア認定看護師)、溝渕監督
1月18日(土)登壇者:杉浦圭子(元NHKアナウンサー)、高橋都(NPO法人がんサバイバーシップネットワーク代表理事)、溝渕監督
公開日決定
京都シネマ(京都・烏丸)2025年1月31日(金)~
第七藝術劇場(大阪・十三)2025年2月1日(土)~
元町映画館(兵庫)2025年3月15日(金)~
公開日未定
イオンシネマ板橋(東京)、イオンシネマ高の原(京都・奈良)、イオンシネマ和歌山(和歌山)、TOHOシネマズ橿原(奈良)、TOHOシネマズ緑井(広島)、TOHOシネマズ高知(高知)、横川シネマ(広島)、あかつきシアター(高知・黒潮町)
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