湊

まず、「まえがき」から圧倒された。

 生きた文字、歴史を伝える文字、その選びぬかれた文字たちの厚みと重み、動乱の時代を生き抜いた一人の勇敢な女性の闘いと証しである。

 私は個人的にも湊晶子先生と親しくさせいただいているゆえに今回の書評の依頼がきたのかと、内心、うれしかったが、いえ、いえ、そんな個人的な関わりなど一瞬で蹴散らされてしまった…。

 この分厚い著書は、時代に迫り、人格に迫り、時代を超え、人格すら超えて魂と霊に迫ってくる。

まさにこの御言葉の真実の息吹を実感するのである。

   「神のことばは生きていて、力があり、両刃の剣よりも鋭く、たましいと霊、関節と骨髄を分けるまでに刺し貫き、心の思いやはかりごとを見分けることができます」(ヘブル4章12節)

 この書の構成は、3部構成になっている。

 第一部は、「ローマ帝国とキリスト教」。そのほとんどは1970年代に執筆されたという。この執筆中に夫君を天に送られるという痛ましい体験をされている。それでも湊師は筆を止めることはなかった。3人の子育てに明け暮れながら夫君を天に送るという時代に書かれた論文とは思えない深い洞察と歴史観は私を圧倒する。

 第二部は、「キリスト教人格論と日本の教育」。人間と人格はどこが違うのか──思いがけない問がはじまった。それを突き詰めるために湊氏は56年、留学するのである。それは「海の向こう側から日本を見たい」という思いからだった。そして、それは5年7か月におよんだ。湊師の人格探求旅行であった。

 第三部は、「女性と社会」。これこそ湊氏の集大成のテーマであり、すべての女性への愛の讃歌に他ならない。湊師は初代教会史に込めた女性論を力強く高らかに論じてくださる。私たち女性教職が向き合うべき課題と時代の流れを、的確に大胆に、しかも繊細に語り尽くしてくださる。

 私はこれからも敬愛する湊師のまわりをうろちょろしながら、とっておきの至福を味わいたいと思っている。

 ぜひとも手元において生涯の至宝の1冊にしてほしい。86歳の真摯なまなざしが見えてくる。

評・神津喜代子=日本バプテスト教会連合大野キリスト教会主事

『初代教会と現代 』湊晶子著、ヨベル、3,780円税込、A5版

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