イエスの挑戦
歴史を通して現されていく主の偉大な計画。
私たちはその一端をどう担うのか。「リベラル」や「福音派」などのラベルをいったん脇に置いて、現代を生きるクリスチャンとしての使命や霊的成長を土台から再考できる1冊。

 本書は、英国セント・アンドリューズ大学神学部で教鞭を執るN・T・ライト氏が1999年に行った講演をもとにして出版された。当時著者は英国国教会のダラム主教を務めていた(2010年に引退)。私は神学校在学中に著者の『新約聖書と神の民』や『イエスと神の勝利』を読み、何度となく新鮮な驚きをもって目が開かれていったことを覚えている。牧師の働きの中でも『驚くべき希望』には特に大きな示唆をいただいている。本書は、それらの入門編にあたり、今世界で最も注目を集めている神学者であり歴史研究者である著者の造詣が凝縮された作品とも言える。

 あなたは「挑戦(チャレンジ) 」という言葉にどのように反応するだろうか。否定的にも肯定的にもとれる言葉なので反応は様々だろう。教義中心主義や現状維持に固執する時には、疎ましい言葉かもしれない。しかし、さらなる成長や鍛錬を目指す時には、不可欠で歓迎すべき言葉であろう。著者はすべてのクリスチャンがより誠実に宣教の召しに従事し、イエスの弟子として成長し続けるためには「イエスの挑戦 (チャレンジ) 」としっかり向き合う必要があると主張する。

 「挑戦 (チャレンジ) 」とは何か。それを理解する鍵は、イエスを歴史的に探究することにあるというのだ。その必要性を警告を込めて次のように訴える。「イエスがだれであったかについてより深く理解することへの招きに、教会が応えることを忘れるときには、必ず偶像礼拝と危険な政治信条が忍び寄ってくる」(38〜39頁)。1世紀のイスラエルという文脈の中で「イエスはいったい何者であったのか、何を成し遂げたのか 」(44頁)。イエスが当時の人々に与えた挑戦とは。これらの問いに真剣に取り組むならば「より深い、まことの正統的信仰を生みだします 」(29頁)と著者は強調する。そして、そのような歴史的探求の過程を経てはじめて「現代にとってイエスはどんな存在であるのか 」(59頁)が見えてくる、と。

 「イエスの挑戦 (チャレンジ) 」の切り口となるキーワードを一部紹介すると、「神の国」、「象徴 (シンボル)」、「十字架」、「復活」、「壮大な物語(メタ・ナラティブ) 」など。鋭敏なライト節が炸裂(さくれつ)していて、ワクワクしながら読み進むことができる。

 最後に輝きを放っているのは、現代社会への応用だ。私たちがポストモダンという思潮の中でどのようにイエスの挑戦(チャレンジ) に応答し、宣教を進めていくべきかが提示されている。もともとは西洋の読者を念頭に書かれた本書。しかし、多元主義的な傾向の強い日本でも同じく、あるいはそれ以上に有用であると思う。

 イエスは1世紀のイスラエルの既成概念に挑戦した。そして、今、私たちにも挑戦し続ける。この挑戦をあなたはどう受け取るだろうか。

評・中西覚=シアトル日本人長老教会牧師

『イエスの挑戦 イエスを再発見する旅』N・T・ライト著、飯田岳訳、鎌野直人監訳、いのちのことば社、2,700円税込、四六版

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