本書の前身となる『「信仰」という名の虐待』(いのちのことば社、2002)の出版時、筆者や出版社の元には「『信仰』という名のもとに虐待を受けた人たち」から感謝の言葉が届いたそうだ。それは、本書が指摘するような「虐待」が実在している証しである。

 実際には勇気を出して訴える被害者も、沈黙している被害者もいる。筆者はその理由を「いまだその虐待のコントロールから解放されていないからだ」と言う。そこで本書では虐待のメカニズムと被害者がそこから解放されるためになすべき具体的な方法の解説に多くを割く。被害者はそのメカニズムの中で、加害者によって自らの被害に気づけないようにされている。

 それゆえ解放のプロセスの第一は、自分が被害者であると認識することだ。指導者に有利な聖書解釈に代表される「信仰」的な言語で縛り付けることの不当性を、反対に聖書を用いながら明らかにする本書を被害者が読むことは、確実にこのプロセスを助ける力となるだろう。

 ただし、本書を読み勇気を出して声を上げた被害者が直面するであろう教会の現実もある。前回の出版では、牧師やキリスト教関係者から「なぜこのような内容の本を出版したのか!」「この本はキリスト教に悪いイメージを与えるだけだ!」などの「批判」の声も届いたそうだ。ここには、自らが「信仰」の名のもとに誰かを傷つける可能性への自省や被害者への寄り添いよりも、組織や自身のイメージを守ることを優先する「信仰者」の姿勢が見え隠れする。このような姿勢こそが「虐待」のメカニズムを強固にし、結果的に加害者の「虐待」に加担していることについて、私たちは大いに自覚すべきだ。

 そうした加害者・被害者の周辺にいる者たちが、この「虐待」メカニズムにおいてどのように機能(良くも悪くも)し、そこからどう「解放」を生み出していくのかについての視点は残念ながら本書ではまだ触れられていない部分ではあるので、次回以降に期待したい。

評・松見享子=日本バプテスト連盟宣教研究所非常勤所員、恵泉バプテスト教会協力牧師
『「信仰」という名の虐待からの解放 霊的・精神的なパワーハラスメントにどう対応するか』
ズィヴィー・パスカル、ウィリアム・ウッド共著、 いのちのことば社  1,650円+税、A5判

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