ウィリアム・キャヴィノー(デ・ポール大学教授、1962〜)は、ハワーワスの影響を受けたカトリックのキリスト教社会倫理学者である。

 本書は3部から成っている。第1部は国家の神話を扱う。「想像の共同体」(アンダーソン)としての世俗的国民国家がわれわれにとっての救済者であるという啓蒙主義的物語に基づく理解は、歴史的にも神学的にも誤りであると論じる。若者が、兵士とされ、遠い国の知らない人を殺さなくてはならないと教えられるという国家の物語は我が国も経験した。

第二部は市民社会の神話を扱う。国家(公)とプライベート(私)の間に自由で公共的な空間を作り出すという試みがある。しかしこれは国家が教会を支配するために用いられるのであり、中立的な空間という理解はキリストの弟子として生きることを難しくするという。

 第三部はグローバリゼーションの神話を扱う。国民国家を超えようとするグローバリゼーションの物語は、普遍的なものの支配下にローカルなものを置こうとする誤った公同性であると論じる。

 これらを超え正しくすべてを相対化するものとして、著者は聖餐に注目する。キリストの体にふさわしい物語が実践される聖餐は人々の壁を超え、真のアイデンティティを提供し、普遍とローカルを克服するものと論じる。

 二つ問題点がある。グローバリゼーションの問題は、英国のEU離脱を含め、原著が書かれた2003年よりもはるかに深刻となっており、その分析は不十分に見える。

 もう一つはここで描かれているカトリックの「聖餐」(十分な神学的理由がありそれを否定するものではないが、そこにプロテスタントは招かれていない)の教義を中心に置くのではなく、聖餐に象徴される神の愛と新しい神の民のアイデンティティーがもっと強調されるべきだと思う。

 本書は、ポストモダン的なカトリックの社会倫理学として注目すべき試みであり、評価したい。聖餐に注目しているのも有益な方向であると考える。

評・藤原淳賀=青山学院大学教授

『政治神学の想像力 政治的実践としての典礼のために』
ウィリアム・T・キャヴァノー著、 東方敬信、田上雅徳共訳 新教出版社、2,750円税込、四六判

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