現在のコロナ・パンデミックと私たち信仰者はどう向き合ったらよいのだろうか。その何らかのヒントを100年前のパンデミックから得たい。
そんな思いが、この本には込められています。

今からおよそ100年前の1918年から1920年にかけて、世界中で大流行したスペイン風邪に、当時の日本のキリスト教会がどう向き合ったのか、8名の著者が当時の資料を丹念に調べつつまとめてくれています。

当時のスペイン風邪は、日本を含む世界中で猛威を振るったまさにパンデミックでした。教会でも多くの信者が亡くなり、当時のキリスト教会も深刻な影響を被ります。それなのに、その後の教会の歴史においてこのスペイン風邪は忘れられ、歴史の中に埋もれてしまいました。それはなぜなのか。

一番大きな理由として指摘されているのは、当時パンデミックは教会の課題として意識されることが少なく、信仰的・神学的問いかけにはなり得なかったというもの。救いの理解が罪と赦しなどの内面的な領域に限定され、この世の現実に当時の教会は充分に向き合いきれていなかった、と言うのです。

ただし興味深く感じたのは、内村鑑三や中田重治らによって起こされた「再臨運動」の展開に、スペイン風邪の影響が及んでいたという点。内村も中田も、スペイン風邪の流行を再臨のしるしと捉え、警告を発しました。

彼らは、不安におののく人々に届くメッセージを必ずしも語り切れていたわけではなかったようです。ただ、不安定な世の中にあって「再臨」をテーマにしていたキリスト者たちがいた、という点は注目に値します。

今日の私たちはコロナの感染予防に必死ですが、パンデミックそのものに十分に向き合えているわけではないように思います。死の恐怖を抱く人々に届く福音をどれだけ語り、救いの完成を含む福音の全体像をどれだけこの世に提示できているだろうか。そんな問いかけをこの本を通していただきました。
評・若井和生=単立・飯能キリスト聖園教会牧師

『100年前のパンデミック 日本のキリスト教はスペイン風邪とどう向き合ったか 』
富坂キリスト教センター編、
新教出版社 1,650円税込、A5判

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