地域に仕える本来の姿がそこに

木原 活信 同志社大学社会学部教授

神奈川県にある中原キリスト教会(ホッとスペース中原)は、壮絶な苦悩の人生から救われた佐々木炎牧師が20年以上前に創設した教会である。彼とは個人的にも親しくさせていただいているが、「私は非嫡出子(法律上の婚姻関係にない男女間に生まれた子)」と告白する通り、その半生は壮絶であるが、以下のように述べる。

「ゴミ収集場から拾い集めた資材で、掘立て小屋を建てました。水道も電気もなく、屋根は何度も風で飛ばされ、雨漏りの連続でした。テレビや冷蔵庫、お風呂もなく、ロウソクの明かりで生活、そんな生活の中で私は不良少年になりました。家には帰らず、友だちの家やゲームセンターに入り浸り、夢も希望もない中で、気がつけば何百人もの不良グループのリーダーになっていました。そこは社会の負の縮図そのものでした。病気、失職、ひとり親、貧困、アルコールやギャンブル依存症、借金苦、DV等々、仲間のほとんどの家庭が、複数の深刻な問題を抱えて、家庭崩壊していました。そんな環境を理解せず、私たちへの敵対感をむき出しにする大人へ、子どもである私たちができる選択肢は、反発や反抗しかありませんでした」(公式サイトより引用)

そのような苦悩のときに、神の真の愛に気づき、劇的に180度回心し、献身して牧師となった。その彼が牧会する教会はユニークである。教会に併設しているNPO法人ホッとスペース中原が福祉事業を展開している。教会が礼拝・交わり(コイノニア)、宣教(ケリュグマ)の共同体であるとともに、NPO法人ホッとスペース中原を通して、奉仕(ディアコニア、福祉事業)を実践している。その福祉事業は、その専門性への向上意識、プロ集団として地域社会に仕えていこうとする意識は半端ではない。地域の評判もよく、結果的に地域に根差し、絶大な信頼を得ている。

子ども、高齢者、障害児・者の支援事業、子育て支援事業があり、また、社会的に排除された方々の更生事業にも取り組んでいる。支援される側と支援する側がともに神に仕え合うなかで、誰にとっても生きがいを感ずることができる居場所(ホッとスペース)を形成している。これらの実践の原点には、自ら背負わされた苦難を基本とした「弱さや欠け、痛みや傷」に対しての共感共苦がその根底にあることを以下にように述べている。

「人は例えどれほどの弱さや欠け、狂気を内に秘めていようとも、なお、大いなる可能性を生まれながらに備えていると私は確信しました。(中略)そして、弱さと欠けは、他者と共に生きる恵なのだ、だからこそ、お互いにありのままの自己と他者を受け入れ、敬意を払い、大切な存在として共に生きる場所と存在がつながり合うことが必要なのです」(同前)

ここに示されているように彼がここまで弱さや人の痛みにこだわり、そして普通では人が放ってしまうような難しい事柄でも逃げずにそれに敢えて手を差し伸べるのは、本人がその苦しみと痛みを一番よく知っているからなのであろう。

現代の日本で宣教に力がなくなったと言われて久しい。それゆえに目の前の成果を焦って求めるあまり、教会内での布教活動だけを宣教と考えて、それだけに専念する教会が少なくない。結果として、地域の方々には敷居が高く、伝道集会をしても来会者が少なく苦戦しているようであるが、案外、日本の宣教に力がないのはコンパッションの愛に基づくディアコニアとして地域に仕える教会の本来の姿の欠落がその元凶ではなかろうか。そしてそれが地域との遊離を生み出し、結果的に建物だけが荘厳であっても誰も寄りつかない状態になっているのかもしれない。

中原キリスト教会(ホッとスペース中原)に宣教の新しい可能性とその息吹を感じた。

2023年05月21日号 03面掲載記事)

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