碓井 真史 新潟青陵大学大学院教授/心理学者

美化でも問責でもなく、寄り添うこと

芸能人の自殺報道が続いている。大きな自殺報道は、次の自殺を誘発する。自殺の連鎖はまるで伝染病のように広がっていく。センセーショナルな自殺報道の後は自殺が増えやすい。さらに、事故死も増えやすくなる。自殺と事故死は、曖昧な部分もあるからだ。

以前に比べると、自殺報道には抑制がかかっている。「自殺」を大見出しに使ったり自殺方法を詳細に報道したりすることも減った。自殺報道の最後には、いのちの電話などが紹介されている。

しかし、相談窓口を紹介さえすれば良いわけではない。故人の写真を大きく出し、映像を繰り返し流し、長時間にわたって放送することも普通だ。マスコミの立場に立てば、ネタとして取り上げないわけにはいかないことも理解はできるが。

自殺や自死の言葉を使わないまま報道されることもある。過激な報道を避けているのだろうが、これではきちんと自殺問題について考えることができない。自殺予防の研究によれば、自殺予防活動には効果がある。自殺など話題にもしない方が良い、「寝た子を起こすな」は、誤解である。自殺は止められる死なのだ。

しかし、予防活動にはトゲがある。自死遺族にとっては、自殺予防の声は心に突き刺さる。クリスチャンが、自ら死を選ぶこともある。自殺者の多くは心のバランスを崩している人で、どんな人にも危険性はあるのだ。自殺は、事が起きる前は止められることと考えたいが、事が起きてしまえば、どうしようもなかったとしか言いようがない。

クリスチャンの家族が自ら死を選ぶこともある。自死の衝撃と、その後の人間関係の混乱を、私も見聞きしてきた。故人を最も愛し、最も身近にいた人が、周囲から最も責められることもある。責めている人もつらいのだろう。私たちの愛が試されている。

10年前には、アメリカの著名な牧師リック・ウォレン氏のご子息が自殺することも起きている。以前からうつ病など精神疾患で苦しんでいたという。ウォレン氏の周囲は、彼と共に泣いた。ウォレン氏は語る。「妻と私は、みなさんの愛と祈りと心からのことばに、圧倒されています。みなさん全員が、私たちの壊れた心を包んでくれています」

自殺を美化することも、また逆に責め立てることも、自殺の連鎖につながる。もちろん神に与えられた命は大切だ。自殺企図者に巻き込まれないためには、価値観をしっかり保つことが必要だろう。しかし、どんなに正しい言葉でも、価値観を振り回し押し付けては自殺を止める力にはならない。

「死にたい」「消えたい」などは明白な自殺のサインだが、わかりにくいサインもある。サインを見つけられなくても、いつもと違うと感じた時には、一声かけよう。一声かけて終わるのではなく、話を聞くきっかけを作ろう。人生や命について直接語る必要もない。ただ、寄り添おう。共に悩み、共に生きていこう。

2023年08月06日号 03面掲載記事)

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