10月12日、文部科学省は宗教法人審議会を開き、盛山文科相は統一協会(現・世界平和統一家庭連合)による被害は甚大で宗教法人法81条の解散命令に該当するとして解散命令を東京地裁に請求することを表明した。それに先立ち、統一協会等による被害救済・抑止に取り組んできた全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連=川井康雄事務局長)は9月30日声明を発表し、速やかに解散命令が出されるとともに、統一協会の財産が隠匿・散逸されないよう財産保全の特別措置法を今臨時国会中に速やかに成立させるよう求めた。

文科省は統一協会に対し計7回の質問権を行使したほか、170人に及ぶ被害者からのヒアリングなどを実施して情報収集に努め、被害事実を確認。盛山文科相は、民事訴訟で32件、22億円の被害は民法の不法行為に該当すると述べた。

統一協会をめぐる問題は、キリスト教界では「異端・カルト問題」として教理や実態が解明されてきた。サークル活動やビデオセンターによる偽装勧誘、外部の情報を排除した中で『原理講論』の教えを植え付けるマインドコントロール、自分たちだけが善(神の側)でそれ以外の世界は悪(サタンの側)とする善悪二元論によって、詐欺的な因縁トークを使った霊感商法や家庭崩壊を招く高額献金の強要、学業放棄など様々な社会問題を招いてきた。

信者の救出・脱会支援は、被害者の家族から助けを求められたキリスト教会の牧師・信徒らを中心に行われていたが、1987年に全国弁連が発足し、法的・経済的な面でも救済が進んできた。ジャーナリストらの実態解明とともに、脱会した元信者からもたらされる内部情報、脱会カウンセリングを重ねてきた牧師・信徒らによって教義的なだましのメカニズムが解明され、複合的に被害者救済が進んできた経緯がある。

さらなる被害防止と「財産保全」を

今回の全国弁連声明は、統一協会に対し、過去の違法・不当行為について第三者を関与させるなどして適切に調査し、献金などの経済的被害を訴える者からの献金記録などの開示請求があった場合は、速やかに当該記録を開示するなど、自身が生み出した過去の被害・被害者に真摯に向き合い誠実に対応し、謝罪の上で損害の一切を賠償するよう改めて強く求めた。

全国霊感商法対策弁護士連絡会は9月30日、元信者、牧師、研究者らと都内で集会を開き、記者会見で声明を発表した

全国弁連は、2022年7月の安倍晋三元首相銃撃事件以後も統一協会に対し、個々の信者に責任を押しつけることなく、過去の被害・被害者に対し謝罪・賠償するよう繰り返し求めてきた。だが、統一協会は真摯に向き合うことなく、全国弁連や所属の弁護士、ジャーナリストなどの批判者、統一協会との関係を適切に対応しようとする地方自治体などを被告とし相次いで民事訴訟を提起するなど、対決姿勢を強めている。

解散命令請求の意義について全国弁連は、声明の趣旨説明の中で「文化庁が解散命令請求を行うということは、政府が統一協会について『法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした』(宗教法人法第81条1項1号)、つまり反社会的行為を法人として組織的に継続して行ってきたものと判断したことを意味する」と説明する。

また、統一協会がアピールする「教会改革」については、欺瞞(ぎまん)であり世間への目くらましに過ぎないと断罪。被害が教団に反対する者によってねつ造されたものであるかのように主張し、被害の声を上げる者を攻撃する姿勢さえ見せていることを厳しく批判した。統一協会は2009年3月25日に「コンプライアンス宣言」を出して教会改革を進め、それ以後は相談件数も裁判件数も急減したとしているが、実際にはコンプライアンス宣言以後も引き続き多くの相談・裁判が存在しているとして、被害の統計を公開した。

それによると、全国の約350人の弁護士で構成される「全国統一教会被害対策弁護団」(全国弁護団)所属の弁護士が交渉・訴訟事件として受任したコンプライアンス宣言以後の被害は、現時点で判明しているだけでも140件、19億5千万円余り。また、日本弁護士連合会(日弁連)が受けた霊感商法などの被害に関する法律相談のうち229件が、日本司法支援センター(法テラス)の「霊感商法等対応ダイヤル」では144件が、コンプライアンス宣言以後だった。いずれも多数・巨額の被害である。実際に、2009年以降も統一協会に対する献金裁判は続いている。

声明は、解散命令請求事件の迅速な審理と財産保全の特別措置法を求める理由について、審理が迅速に行われなければ財産隠匿・散逸に時間的猶予を与えることになり、被害救済ができなくなる可能性が高いことを指摘する。統一協会はこれまで毎年数百億円もの資金を韓国やアメリカに送金しており、組織的に全国の不動産売却を図ったこともある。解散命令が確定しても清算手続前に財産が隠匿され散逸してしまえば、被害者は泣き寝入りになってしまうと訴えている。

声明は最後に、解散命令請求がなされた後も、統一協会被害の救済および抑止という結成以来の目的に向けて、関連各所と積極的に協力・連携し、さらに考え方・意見・政党を問わず政治家たちとも協力・連携するなどして、引き続き努力していく決意を表明した。

声明の発表に先立ち都内で開かれた集会には、弁護士のほかカルトの被害救済にあたってきたキリスト教会の牧師・信徒、ジャーナリスト、元信者(脱会者)ら多数が参集し、それぞれの活動報告や最近の動向に関する情報、二世など脱会者らの証言、宗教学者の講演などから学びあった。

冒頭あいさつで、全国弁連代表世話人の山口広弁護士は、「解散命令請求は、私たちが30年間訴え続けてきたことがようやく実現することになる。組織的・計画的・継続的悪質性を認定していただきたい」と期待を寄せる一方、「(解散命令により統一協会は)組織が混乱し、分派がこれまで以上に増え、悲惨な金集めの被害が起こるだろう。さらなる被害を防ぐ対策が必要だと思う。40年余りの最大の被害者は信者の子どもたち、独り暮らしのお年寄り、長年ロボットになってきた信者たちです」と訴えた。

 

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