[レビュー3]悔い改めと信仰に導かれた神のしもべ 『過去から永遠へ ワンゲリン自伝』 評・池上安
ルーテル教会の牧師家庭に生まれ、「小説聖書」のストーリーテラーとして知られるW・ワンゲリンの自伝である。青年期の彼は信仰者を装うが内実は孤独と死に悩み、神に対する不信をつのらせていた。
「私は神がいないと思っていたのではない。…もし神が無限であるなら、そのようにしか存在しえないのであり、有限な私がその無限を把握する術もない。…神は失敗などというものは何もご存じない。…神はどうやって私の惨めさを理解することができるだろう? すべてのことが神に対する怒りを抱かせた。私が神に対して失望しているという事実のほか、神に対する確かな証拠はどこにあるだろう?」
あのヨブに似て「私のあり方こそが私の地獄なのだ」とさえ告白する。
まさに罪悪感、自己嫌悪、絶望に陥っていた彼だが、自身の罪の告白と父の愛と赦しを経験する。そして聖書の「目の不自由な人の癒し」や「羊と羊飼いの物語」は、彼を真の羊飼い、十字架と復活のキリストに導いた。
神学校を終えた彼は、アフリカ系アメリカ人の教会へ牧師として招かれる。そこで教団の内紛に苦悩し、執拗(しつよう)な差別という罪とも向き合うことになるが、聖書のことばと信徒のまじわり、賛美の喜びは彼の光となり、力となる。
彼は日々悔い改め、みことばに聴く。ある信徒への牧会から次のように自戒する。
「私の懇願は頑なアロイーズのためだ、と私は自分に言い聞かせた。だが今ではわかっている。…私自身のためだった、と。ああ、私は自分自身のためにイエスという鞭でこの女性を打っていたんだ。私は、イエスで十分だと説教した。『ああ、主イエスよ、来てください』と私は祈った」
悔い改めと信仰から神のしもべはつくられる。本書は、単に宣教や牧会の成功者の話ではない。今を生きる牧師の証しである。「過去から永遠へ」とは、「御国は近づいた…」との宣告ではないか。
(評・池上安=神戸ルーテル神学校講師)
『過去から永遠へ ワンゲリン自伝』
ウォルター・ワンゲリン著、内山薫訳、
いのちのことば社、1,760円税込、B6判
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