明学平和研究所公開講演会で五十嵐氏

 

「目先のことだけではなく、未来のために行動してほしい」。廃炉作業中の東京電力福島第一原発の「処理水」海洋放出が目前にせまる中、問題意識を喚起する声が上がった。6月には、放出のための設備が完成。政府はこの夏の放出を計画しているが、漁業関係者、国外などから不安の声は根強い。明治学院大学国際平和研究所は、この問題について公開講演会を6月22日に同横浜キャンパスで開いた=写真=。

講師は東日本大震災・原発事故後、被災地復興支援活動を続けてきた、福島県いわき市の五十嵐義隆氏。「放出し、その被害や経済的損失が生じれば、誰がいつまで補償でき、責任をとれるのか。国民、住民は将来起きる犠牲や負担についてイメージできているだろうか」と問うた。海洋放出の問題点、解釈と責任について述べ、平和的で協力的な問題解決のための国際的な枠組み「福島協定」を提案した。

福島県民の意識も一様ではない。福島民報による県民世論調査(3月6日)では、風評被害が「起こる」「ある程度起こる」が9割ある一方、放出ついて、賛成39%、反対41%だった。「賛成、反対どちらの根拠にもなりうる微妙な数字だ。『分からない』も20%。県民も判断に困っている」と五十嵐氏は言う。

「海産物、塩、海水、など海洋資源の損失は、一つの国で補償、賠償できる規模ではない。それを日本や一部の国、原子力推進が前提の国際原子力機関(IAEA)の判断だけで決定していいのか。未来の子々孫々のためにどうするか。『愛』の反対は『無関心』。風化させてはいけない」と強調した。

「処理水」の放射能汚染については、動画「『汚染水はなぜ流してはならないか』小出裕章講演会」を紹介した。

廃炉に関して、使用済み燃料、デブリ取り出し、廃棄物、除染土など、様々な課題があり、事故処理費推計は当初の5兆円から22兆円に膨らむ。「それでも足りるか。コストの問題で放出の方向にいってしまう。廃炉技術が導入されれば、もっと違うコスト計算ができるのではないか」

「もともとは放出はやむを得ないと思っていた」と明かす。中国で廃炉にかかわる技術が開発されたという情報を2月に知ったことが転機になった。五十嵐氏は日中のビジネス交流を支援する一般社団法人日中共同市場促進会代表理事でもあり、その情報を得た。

「放出に頼らなくていい、と光明が見えた」と語る。「日本も米国も、中国の廃炉技術を必要としている。政治の問題で動かないなら、国際世論を動かしたい」と述べた。

国際的な枠組みで、原子力、放射能被害に対応する団体「一般社団法人 CJ国際原子力被害総合対策機構」を設立し、CO2排出基準を定めた京都議定書やパリ協定を参考にした「福島協定」を提案すべく、専門家などともに文書を作成中だ。「政府、事業者、国民それぞれに責任はある。しかし、ただ責めるだけでは建設的ではない。政府も東電もIAEAも責任者が変わり続けている。一時的な責任者に責任を問うだけでは解決しない。同じ時代を生きる世界の人たちとともに、この問題の解決に向かう責任が私たちにあるのではないか」と勧めた。【高橋良知】

 

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