【書評】国策迎合に心を疼(うず)かせるか 『証言・満州キリスト教 開拓村 国策移民迎合の 果てに』評・榎本恵
本書を今ようやく読み終えた。ページをめくるたびに気持ちが沈み、途中何度も、手が止まる。それは、著者の言うところの〈疚(やま)しさ〉に心が疼(うず)くからだ。もちろん私は、戦後生まれの戦争を知らない世代である。しかし、私の心が疼くのは、この「知られざる日本キリスト教史」を、実は薄々知っており、しかも知ってはいるけれども目を逸(そ)らしていた、その後ろめたさに向き合わせられたからに他ならない。
1932年、清王朝最後の皇帝溥儀を担ぎ出し中国東北部に日本の傀儡(かいらい)国家として建設された「満洲国」。「五族協和」「大東亜共栄圏」の美名のもとに、27万人にも及ぶ日本人が、海を渡った。その中に「キリスト教開拓村」がある。41年に第1次開拓団が、そして45年の敗戦のわずか四か月前の4月に第2次開拓団が、それぞれ日本基督教連盟(後に日本基督教団)から送り出されている。その数、81世帯、216人。死者53人、帰国確認116人。不詳47人。
著者は、その数少ない証言者一人一人から丁寧に聞き取りをし、また残された資料を精緻に読み解く。賀川豊彦をはじめ戦前の教会リーダーたちがいかに、国策に迎合し、準備不足のまま、このキリスト教開拓村計画を推し進めていったか。
「最悪の覚悟で行ってきます」と告げる、団長堀井順次牧師に対し「賀川は顔も上げず、一言も答えなかった」とのエピソードに言葉を失う。ましてや、第2次募集に際し、激しい弾圧を受けたホーリネス系牧師、教会に対して「弾圧された者たちはどんどん満州に来い」とは、全く許すことのできない妄言である。しかも、それらが全て、「満州における基督教村の建設に対する聖なる幻」としてなされたのだ。
しかし果たしてそれは、今から80年前のまさに幻の出来事であったのだろうか。著者は言う。「戦争が他人事ではなく、不穏な足音が聞こえる時代が再び迫ってきました。戦争を回避するためにこれからどうするか−考える補助線としていただけることを切に願っています」と。私たちは、この著書を通し、心を疼かせなければならない。「主的疼疼至底」(ヨハネ13・1)。台湾言では、愛を「疼」と表現するという。イエスの愛は疼く愛だ。私たち今、この忘れ去られようとする疚しさに、疼かなければならないのだ。
(評・榎本恵=アシュラムセンター主幹牧師)
『証言・満州キリスト教開拓村 国策移民迎合の果てに』石浜みかる著、日本キリスト教団出版局、3,300円税込、A5判
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