本番前に神山さん

賛美、ゴスペルは、神から来る希望を思い起こさせ、人々をつなげ、祈りと行動のきっかけにもなる。

今年3月まで毎月11日に開かれてきた災害復興支援超教派一致祈祷会の祈りの輪が、賛美やゴスペルの担い手たちが引き継がれ、4月から新たに復興支援定期チャリティーコンサート「STAND TOGETHER for Relief」として、再出発した。

東日本大震災以降、数々の災害で、クリスチャン・アーティストらは自ら被災地に赴き、思いをつなげてきた。この新たな取り組みへの思いを4月26日に開かれた第一回の集会の模様とともに届ける。

“一万人”から“一人のため”に 被災地支援のきっかけの東日本大震災

被災地に思いを寄せる有志のクリスチャン・アーティストたちによるプロジェクト「PRAY FOR ALL JAPAN」が2019年に立ち上がり、「STAND TOGETHER」の名前でイベントやチャリティーCD制作をしてきた。

この活動の中心メンバー、ゴスペルフォークシンガーの神山みささんが被災地支援活動をするようになったきっかけは2011年の東日本大震災だった。

それまでも、海外で災害が起きた時に「何かしたい」という思いは、抱いていた。下積み時代、バイトをしながら、音楽事務所にも所属してメジャーデビューに向けて活動を本格化させていた。海外で災害が起き、何かできないかと思うことはあったが、事務所からは「音楽に集中した方がいい」と勧められ従っていた。「ただ思いはずっとあった」と言う。

東日本大震災時は、すでに事務所を出てフリーになっていた。様々なミニストリーを共にしてきた仲間たちが福島県いわき市にいた。「メールで安否を確認できたけれど、みんなの顔をみたい。その思いが強かった」と話す。

東京の教会で支援物資が集められていたが、それを被災地に運ぶ働き手がいない。なんとかトラックや運転手をみつけ、震災の8日後、物資の運び手の一人としていわきに向かった。「温かい食べ物が欲しいという声を聞けば、炊き出しを呼びかけ、食材を献品する人の協力を得て運んだ。東京でチャリティーコンサートなどをしながら、被災地での支援活動、と往復する日々が3年ほどつづいた。音楽活動そっちのけで」

かつては「武道館で一万人のコンサート」という目標を掲げていた。しかし、その次にどうしたらいいのか見えなくて悩んでいた。そのような中での震災だった。「〝一万人〟ということから、一人の人でいいから励まして助けることができたら、という思いになった」。そのような心境の変化も振り返る。

相次ぐ災害「日本各地でクリスチャンが立ち上がってほしい」

「STAND TOGETHER」として制作したCDには光る点で日本列島が描かれている

その後も、2016年の熊本地震など、様々な災害支援にかかわるようになる。

19年には、地震、豪雨、台風などが相次いだ。このような中で立ち上がったのが、有志のクリスチャンアーティストたちによる「PRAY FOR ALL JAPAN」。そしてその活動としての「STAND TOGETHER」だ。

「今までは、一つの災害に日本中からクリスチャンが集まり支援をするという流れだったが、次々に各地で災害が起き、人が足りない。日本中のクリスチャンがもっと立ち上がることができれば」という思いからだった。

 

参照:アーティスト仲間らSNSで呼びかけ 「今は祈る時。神様に思い向けたい」 令和元年台風災害復興のための祈り会 

「STAND TOGETHER」として、CDアルバムも制作した。「クリスチャン・アーティストのみならず、ワーシップリーダー、ゴスペルクワイアなど、普段は別々のシーンで活動している人たちが、復興支援、ということで協力し、つながるきっかけにもなった」と言う。

それぞれ手弁当で支援活動をする。そんなアーティストたちの活動の継続のための基金のためにCDが用いられた。

「アーティストたちは、それぞれ支援活動をしてきた人たちが多い。それで一つに集まる時、感動があり、すごい力となった。ボランティアの働きだが、多くの恵みをいただいてきた」と語る。

CDジャケットには、光の点でふち取られた日本列島が描かれている。「光の点は一人ひとりのクリスチャン。日本中でクリスチャンが立ち上がり、光を放ってほしい」という思いからだった。

「STAND TOGETHER」のテーマ聖句は「このように、あなたがたの光を人々の前で輝かせなさい。人々があなたがたの良い行いを見て、天におられるあなたがたの父をあがめるようになるためです。」(マタイ5・16)だ。

能登半島地震「背中を押された」

そして今年は元旦に能登半島地震が発生。「のんびりしていたかったのに、なぜ、とみんな思ったと思う。私もすぐには動けず、家で映像をみて申し訳ない思いがした」

翌日、「気持ちはついていかない、でもずっと背中が押される思いがした」という。

実は、昨年末から、淀橋教会から会堂を自由に使って何かしてみてほしい、という声かけをもらっていた。「私一人のイベントではもったいない。何かチャリティーにつながるものになれば」と思った。2日のうちに淀橋教会に、チャリティーイベント開催の思いを打診。1月26日に、様々なクリスチャンアーティストらとともに、能登半島支援のためのチャリティーコンサートが開催された。「何かしたい。でも何もできない。そんなもどかしい思いの中にいたアーティストや来場者の一歩になったと思う」と語った。

参照:「全てのいのちに”ルーツ”がある」アーティストら 能登半島地震支援チャリティーコンサート 

1月の集会最後には、会場教会の峯野龍弘牧師が「ぜひ毎月やったらいいのではないか」と勧めた。その思いを心にとめた。

「緊急の時間ない中で、協力する一体感で、1月はできた。緊急の集会は、ある面、不完全でも許される部分もあるが、毎月しっかり準備してやるとなると、大変ではないか」という思いが駆け巡った。しかし「やらない理由というのは、自分の大変さ、面倒くささ、音楽活動の支障になるのでは、という思いだったと気づき前に進んだ」と話す。

「賛美の中で一緒に祈る時、一体感があり、心がつながる。これをいっしょに体験して、力を得てほしい。そこから立ち上がっていきたい」

参照:震災一致祈祷会が156回で終了 後継集会も 「種まきと収穫同時に」三箇氏  

第一回集会 「無力だから手を取り合おう」

左からMARISA、chiyo(サルーキ=)、神山みさ、坂上悦子、KUZUHA、

4月26日に第一回集会が東京・新宿区のウェスレアン・淀橋教会で開かれた。広い礼拝堂を存分に使い、音響、照明も駆使された。スタッフたちは道行く人たちに集会のチラシを配った。クワイア関係者など、クリスチャンではない人たちも参加していた様子だ。

ゴスペルシンガーのKUZUHAは、力強い声量で歌い、祈りへの思いを励ました。

「いつもこんな風に祈れたら最高。でもそうじゃない時もある。しかし神様の好意に触れるには、一生懸命さはいらない。だって私たちは愛されている、関係されているから。私たちはもっといろいろなものをそぎ落とされて、愛されている者として賛美したい」と語った。

ロックバンド、サルーキ=は、会衆を巻き込みながらゴスペルロックを熱唱。ボーカルのchiyoは能登半島の被災地を支援で訪問した経験も語った。「鈍くなっていた自分の心に気づかされた。皆がお互いを必要としている。何もかもなくなってしまった時こそ、心がシンプルになります」

10枚目のCDアルバム「恵みのロックンロール」のリリースに触れて、24年間のバンド活動を感謝し、「『権力によらず、能力によらず、わたしの霊によって』と神様は言う。クリスチャンになると、自分の思いではなく、神様の夢が心に広がっていく。人間には無理でも、神様は何でもできます」と励ました。

被災地から駆け付けた能登ヘルプ(能登地震キリスト災害支援会)支援チームリーダーの市來雅伸さん(NPO法人九州キリスト災害支援センター本部長は、バッグバンドや裏方のスタッフにも触れ、「私もほとんど裏方の働き」と共感を示した。熊本、九州をはじめ、様々な被災地に立ってきたが「いつも『自分はここで何かできることがあるのだろうか』と無力感を覚える」と率直な思いを述べた。

「能登ヘルプは、自分たちの好きなことをするのではなく、現地のニーズを大事にして、できることをそれぞれの団体が持ち寄ってやっていく。それぞれの団体の働きを尊重しつつ、一致して取組んでいます」

活動開始から70日間で、登録者、地域教会、飛び入りを含め、1000人近いボランティアがかかわってきた。

半島先端の珠洲町では水道の復旧は6月末の見込み。各家庭ごとに水道管の修復が必要な場合もある。仮設住宅の整備は8月末までかかるという。地元の行政や社会福祉協議会の職員も被災、疲弊し、人手が足りない。

「なぜこんなことを神様は許されるのか、という問いは、クリスチャンではなかった東日本大震災の時から続く問い。しかし今日の賛美を聞いて、神様はすでに勝利している、という希望を改めて確信した。私たちは無力だからこそ、神様に頼って、手を取り合わなくてはいけない。皆さんが忘れないで祈ってくれていることにも励まされた」と話した。

能登ヘルプウェブサイト https://notohelp.bousai.network/#shien

後半はゴスペルシンガーのMARISAがクワイアETERNAL LIFEとともに登場。「被災地の人たちに、忘れていない、と思いを伝えていきたい。ここでたくさんの賛美をして、恵まれて終わりにしてほしくない。この祝福を受けたのは、祝福を自分だけに止めず、流して広げるため。あなたが祝福のスタート」と勧めた。

参照:被災地への祈り継ぐ定期賛美集会開始 「STAND TOGETHER for Relief」 

チャリティコンサートは毎月第四金曜日夜に開かれる予定だ。神山さんは「まだ始まったばかりの働きで、これからが大変だ、という思いはある。でもきっと神様が全て導く。信頼して委ねて導かれていきたい。一人ひとりが立ち上がっていく中で、被災地も、日本もキリストの光を持つ者たちによって明るくなっていくと信じている」と話す。

 

 

次回は5月24日午後7時から同所で。出演は久米小百合、塩谷達也、Hopen(Pf.永井開 Vo.永井のぞみ)、野戸保奈&江古田ゴスペルクワイア、佐藤主一(Gt.)、堀木健太(Ba.)、粟野耀太(Dr.)。現地報告はLOVE EAST  天野真信共同代表(ニューソングチャーチ牧師)、三浦灯理事。

詳しくはPRAY FOR ALL JAPAN ウェブサイト https://pray4alljapan.themedia.jp/

2024年05月05日号 00面掲載記事)

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