寄稿・山口陽一(東京基督教大学学長)

 

日本の政治と政治家のためにどう祈るか。7月10日に実施された参議院選挙は政党の多様化が見られたとともに、直前に元首相射殺(関連記事参照)が起こるなど、波乱含みだった。今回はキリスト者の候補者が立ち、その政治姿勢について論議もされた。日本キリスト教史が専門の山口陽一氏が、歴史の観点から参院選を振り返る。

 

「義をもって、治めよ」

歴史の反省と、とりなしを

 

今回の参議院選挙を日本のキリスト教史をたどりつつ振り返ってみたい。

 

民権運動からキリスト教社会主義まで

 

1890年の第一回帝国議会では、自由民権運動を背景に、菊池九郎(青森)、湯浅治郎(群馬)、島田三郎・中島信行(神奈川)、加藤勝弥(新潟)、江原素六(静岡)、片岡健吉(高知)らクリスチャン議員が存在感を示す。中島信行は初代衆議院議長となり、片岡健吉、島田三郎も議長を務めた。その後も尾崎行雄、横井時雄、根本正、田川大吉郎、松山常次郎、松岡洋右などが活躍する。

1901年、キリスト教社会主義者たちは日本最初の社会主義政党「社会民主党」を結党するが、軍備全廃、普通選挙実施、貴族院廃止を訴え即日禁止される。その後、唯物論的な社会主義とたもとを分かったキリスト教社会主義の政治家には安部磯雄、鈴木文治、杉山元治郎らがいる。

一方、河辺貞吉から洗礼を受けた松岡洋右は、満州事変を日本の侵略とする国連において、日本政府全権として「十字架にかけられる日本」という主旨の大演説を行う。そして国連を脱退した大日本帝国は破滅への戦争に突き進んだ。

 

剣をもてば剣で滅びる―戦後の展開

 

敗戦後の47年、新憲法による初の衆参両議院選挙が行なわれ、参議院に10人、衆議院に21人のクリスチャン議員が当選した(「キリスト新聞」)。富士見町教会の長老で社会党の片山哲が組閣し、大臣の森戸辰男、鈴木義男、北村徳太郎、笹森順造、衆議院議長の松岡駒吉らがクリスチャンで、参議院には田中耕太郎や市川房枝がいた。

内村鑑三の感化を受けカトリック教会で受洗した田中耕太郎文部大臣は、衆議院憲法改正案委員会の9条逐条審議において、「つまり戦争放棄をなぜ致しましたかと申しますると、西洋の聖典にもございますように、剣を以って立つ者は剣にて滅ぶという原則を根本的に認めるということであると思うのであります」と答弁している。

洗礼を受けた総理大臣は5人。カトリックが原敬・吉田茂(死後)・麻生太郎、プロテスタントが片山哲・大平正芳である。社会党では、十字架委員長と呼ばれた河上丈太郎は国会内で祈祷会を始め、聖隷ホスピスの長谷川保、田邊誠、河上民雄、金子光、土肥隆一らが堅実な働きをした。さらにキリスト教信仰による政治参加をめざし、75年にキリスト者政治連盟が設立され、77年には武藤富男が軍備の完全撤廃を掲げる「日本キリスト党」を立ち上げて参議院選挙に立候補したが落選した。

 

支持政党多様化、平和憲法の今後

 

現在、クリスチャンの議員には自民党の石破茂、山谷えり子らがいる。今回の参院選では、松谷信司氏(キリスト新聞社)によると別々の党から7人のクリスチャンが立候補した。その中で、プロテスタント福音派の金子道仁牧師が日本維新の会の比例区から出馬し当選を果たした。日本維新の会は、憲法9条の改正・軍事費増強・緊急事態条項・戦没者の慰霊などに積極的姿勢を公約する改憲勢力である。支持政党の多様化と牧師の維新からの出馬に今回の参院選の日本キリスト教史からみた特徴がある。

私は、国民主権・基本的人権の尊重・平和主義の日本国憲法を守る立場から同候補の維新の会からの立候補を支持しなかった。とはいえ、牧師の国会議員としての働きのためにとりなしの祈りを続けたい。世界は第三次世界大戦の入口にあり、武力による平和をめざした安倍元首相が世界平和統一家庭連合(旧・統一協会)への恨みの銃弾に倒れ、悪しき霊がうごめいている。誰が担っても難しい時代の政治であるからこそ、謙虚に歴史の反省に立ち、日本国憲法を尊重し擁護する、人のための政治を願ってやまない。

 「義をもって人を治める者、神を恐れて治める者。その者は、太陽が昇る朝の光、雲一つない朝の光のようだ。雨の後に、地の若草を照らす光のようだ。」(Ⅱサムエル23章3b~4節)

 

関連記事 ☆元首相銃撃事件の背後にカルト家庭崩壊問題の闇 世界平和統一家庭連合記者会見2022年7月12日

     ☆ヤスクニ学習会「若者と考える教会と憲法」で山口氏 「憲法9条は『神の国』にふさわしい憲法」2021年5月5日

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